ビル・アックマンから学ぶ投資の心得『経営陣が恐れる物言う長期投資の株主』
ハーバード大学を卒業し、20代の若さでパーシング・スクエア・キャピタルを立ち上げた。
経営革命を要求する「物言う株主」
日用品大手プロクター・アンド・ギャンブルに投資した際はCEO交代で圧力をかけた。
絶対的な姿勢を辞さず、投資先企業の経営者と衝突することも多い。
日本のサントリーホールディングスがビーム社を買収する流れを作った
2014年1月13日、サントリーホールディングスは、米国の蒸留酒最大手ビーム社を総額160億ドル(約1兆6500億円)で買収すると発表しました。
サントリーの佐治社長は、「ビールで世界で戦うのは難しい。利益率が高く、新規参入の少ない蒸留酒を拡大する」と言い放ち、買収したのです。
取引直後から、ビーム社の株価は急騰し、メディアもこぞって身売りを決めたことを大々的に取り上げました。
ですが、サントリーは決して知名度が高いわけではありませんでした。
ましてや大型買収だったこともあり、メディアはほとんど無名と言っていいほどのサントリーをどう取り上げていいか戸惑っていました。
サントリーのビーム社買収価格は高すぎると言い放つ専門家たち
この日のビーム株は、サントリーの買収価格に差や寄せる形で終えましたが、米国の専門家は買収価格が高すぎではないのかと言いました。
なぜかというと1株あたり83.5ドルで、買収価格の水準を判断する上では、買収される企業のEBITDAに対する買収金額の倍率が使われることが一般的ですが、今回の買収価格の倍率は20倍を超えており、先進国の飲料業界は10倍くらいが一般とされますので、この買収価格は高すぎると思われたからです。
著名投資家のマリオ・ギャベリーは、自身の運用会社で13年末時点でビーム株全体の約2.4%を保有しており、サントリーが買収した時はしてやったりという心境でしたでしょう。
偶然にサントリーの大型買収で利益を得たように見えるが実は裏で動いていた
サントリーの大型買収で大きな利益を得た、ビーム株を保有している投資家の中でも、ずば抜けて利益を得た人物が、ビル・アックマンです。
その時のビル・アックマン率いるパーシング・スクエア・キャピタルは、ビーム社の発行済株式の12.8%を持っており、買収発表時の保有株の時価は3億5000万ドルも手にしています。
今回サントリーの大型買収でビル・アックマンは幸運に恵まれていたと思いますが、それは違います。
ビル・アックマンこそが今回の大型買収の流れをつくった立役者だからです。
ビル・アックマンは経営陣と水面下で協議しており、複合企業であることの相乗効果が見えないという、5時間にも及ぶプレゼンテーションをしました。
そして、経営陣からは望みの答えを用意してくれたと言います。
企業価値を高めるために事業をバラバラにさせた
ビーム社はもともとフォーチュン・ブランズの傘下でした。
ビル・アックマンは2010年から投資を始めると、企業価値を高めるために事業をバラバラにするように言いました。
ビーム社はそれが説得力のある要求に見えたのか、ゴルフ事業を売却し、住宅関連用品の事業を分離しました。
そして、蒸留酒の事業を独立させ存続させることで、企業価値が上がると見込んだのです。
独立をし、ジム・ビームなどのブランドを作りました。
そのブランド力に依って成長を浮き彫りにし、サントリーの巨額買収を引き寄せる結果になりました。
P&Gの事例で見るビル・アックマンという人物
ビル・アックマンはいつもクールで、表情を崩すことはありません。
そして早口で、語り口はきわめて論理的です。他人に隙を与えないことから、経営陣からは恐れられる人物です。
投資した企業に経営の革命を迫るのがほとんどですが、ビル・アックマンは正しいことをするように、公共のスポットライトを活用する手法をとります。
それが事実を公にしてメディアの関心させ、経営陣に圧力をかけようとします。
そのような手法をとるため、投資先の企業からは不満が出ています。
さらにビル・アックマン自身も絶対的な自信を持っており、ファンド業界内部からも悪口が聞こえてます。
経営改革だけでなくP&GのCEOさえも辞任させる影響力
株主として絶大な影響力のあるビル・アックマンを象徴するのが、P&Gとの対決です。
2012年に約20億ドルをP&Gに投資しました。
P&Gはライバルに主力製品のシェアを奪われ、苦境に追い込まれましたが、この機会にアックマンは資料を携えてボブ・マクドナルドCEOと直接会談をしました。
P&Gの時価総額は巨大でしたが、ビル・アックマンは経営陣に揺さぶりをかければ年金基金などの賛同を得られると読んでいました。
そして長い目で見た場合、投資先である企業の経営への関与が欠かせないとの考えを強めました。
初めは世界的な優良企業らしく大人の対応をみせていましたが、株主の圧力が増していくにつれ徐々に追い詰められていきます。
そして、株価が低迷してきており、何らかの対策を打たなければならないようになりました。
それが2012年11月に行われた、2倍以上の人員削減です。
同時に自社株買いについても5割増して、60億にあげました。
ですが、ビル・アックマンは大規模なリストラ策だけでは満足せず、さらなる要求を求めました。
それが、ボブ・マクドナルドCEOです。
P&Gのコスト削減で徐々に改善に向かったが、主力製品の競争力が回復するわけではなかったのです。
ついに2013年5月に、P&Gはボブ・マクドナルドCEOの退任を発表しました。
後任はCEOで勤め、売上高を約2倍にしたアラン・ラフリーが返り咲くことになりました。
アラン・ラフリーはボブ・マクドナルドを次期CEOに指名しましたが、その失敗を認めるかのように、再び現場に戻りました。
そうしてビル・アックマンは、「他の株主から感謝の声がたくさん届いた。ラフリーは素晴らしい経営者だ」と言い、宝間勝利宣言をしました。
ビル・アックマンとういうたった一人のアクティビストが、経営改善策を誘導したことは今回の出来事でわかります。
安定した利益を生む優れたビジネスへ集中した長期投資スタイル
ビル・アックマンは投資先を決める基準は、優れたビジネスを持っているのに、経営陣のミスで価値を最大化にできていない企業に投資します。
10年先まで見通すことができ、安定したキャッシュフローが見込めることも重要なのです。
P&Gやビームはブランド力があり、安定した収益がある企業でしたので、ビル・アックマンは投資したのでしょう。
また技術革新のスピードが速いハイテク業界には興味を示しません。
ビル・アックマンの特徴的なのが集中投資の運用スタイルです。
8〜10銘柄に絞り込み3〜4年と長い期間投資します。
ここ数年で運用資産の拡大で、投資先を広げるアクティビストが増えてきています。
ビル・アックマンは各企業に10億ドル単位で投資する場合は誰にも負けないぐらいの分析力が必要不可欠になり、他国にまで投資先を広げる余裕がありません。
そして、法制度は各国によって違いますのでアクティビストにとってもどんなリスクがあるかわからないため、危ない橋は渡らないという意味では、ビル・アックマンは慎重を兼ね備えた投資家です。
妥協なく企業を分析し経営改善を実行する
投資先を決めると経営改善策が実行に移されるまでは絶対に妥協はしないです。
たとえ周りから批判されようが、あらゆる手段を使うのが特徴です。
P&Gの場合は
- 株価低迷などを持ち出して、他の株主と強調する。
- 自分を取締役員に加えるように要求する。
- メディアを使って大規模なネガティヴキャンペーンをする。
そうすることで徐々に経営陣は追い込まれていきます。
経営陣にとっては不幸の使者に写っていることまちがいないでしょう。
ですがあくまで全ての人がそうではありません。
たいていは水面下で経営陣と交渉し、できる限り円滑に要求をします。
米国では建設的なアクティビズムという言葉がある。
これは株主と経営陣が前向きな関係を作り、企業価値を向上するという意味です。
ビル・アックマンのような改革を要求するのは本当に少数派であり、多くは経営者と話し合いをすることにより、アクティビストが経営にいい影響を与えるという印象が広がっている。
ましてや株主と経営陣の対立が表ざたになれば、ファンドと企業の双方の評判が傷つく恐れもあるからです。
そうなるとビル・アックマンやダニエル・ローブのような強硬派の投資家は周りから迷惑な存在だと思われているのでしょう。
ですがアックマンは経営改善をするために妥協はしないで、あらゆる手段を使った結果なのです。
まとめ
- 日本のサントリーホールディングスがビーム社を買収する流れを作った
偶然にサントリーの大型買収で利益を得たように見えるが実は裏で動いていた
企業価値を高めるために事業をバラバラにさせた - P&Gの事例で見るビル・アックマンという人物
経営改革だけでなくP&GのCEOさえも辞任させる影響力 - 安定した利益を生む優れたビジネスへ集中した長期投資スタイル
妥協なく企業を分析し経営改善を実行する