偉大なる投資家から学ぶ投資の心得『レイ・ダリオ』後編
偉大なる投資家から学ぶ投資の心得『レイ・ダリオ』前編の続きです。
世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者。
運用資産は約1500億ドル。
米金融危機や欧州の債務問題を予見し、2011年は39億ドルの巨額の報酬を得た。
世界の株式・債券・為替などあらゆる資産に投資するグローバル・マクロ戦略を採用する。
FRBなど世界の中央銀行がもっとも注目する投資家でもある。
信用の膨張と収縮という視点で世界を見ないと金融危機は再び起きる
「経済はこんなにシンプルなものなのに、ほとんどの政策当局者が気付いてこなかった。」
レイ・ダリオはこう語りました。
金融市場で勝ち続けることの難しさは誰よりも理解しているのに、エコノミストや政治家も気付かない視点を獲得することで成功してきたのに、前回ご紹介した動画のように、なぜ自らの経済理論を公表したのか?
それは、将来にリーマンショックのような過ちを繰り返さないためなのです。
2007年末に米財務省にまで足を運び、未だかつてないほどの金融危機が起きるリスクに警鐘を鳴らしたが、まともに受け取ってもらえなかったことも理由の一つです。
金融危機が何度も繰り返してしまっているのは、歴史が証明しています。
レイ・ダリオは「信用の膨張と収縮という視点で世界を見る目が社会全体に養われることを願う。そうすれば、リーマンショックのような深刻な危機を回避できるかもしれない。」と訴えたのです。
ブリッジウォーターは金融や商取引に関するあらゆるデータを収集している
レイ・ダリオ率いるブリッジウォーターは、信用の膨張と収縮が金融危機を起こす、ということを理解しているため、銀行の融資から、株式市場における買い手と売り手の状況、企業の商取引まで、あらゆるデータを収集し、経済全体でどれほどの債務が積み上がっているのかを計測しています。
その細部のこだわりについて、FRB元議長のポール・ボルカーは「FRBよりも精密で、正確な分析をしている」と評しました。
ブリッジウォーターが毎日発行する顧客向けのレターは、FRB内部でも必読の資料になっているほど、根拠となるデータや事象を積み上げ、現在の景気の正確な立ち位置から未来を予見するレイ・ダリオは、他を凌駕する立場にあるのです。
レイ・ダリオが考える世界経済の未来
レイ・ダリオは今の世界を、巨額の債務を抱える先進国と圧倒的な債権者である新興国という二項対立でとらえています。
バブル崩壊(リーマンショック)が金融危機を招き、先進国は当面、デレバレッジの状態が続く。その点で財政面で余力のある新興国はより優位な立場にあると考えています。
米国による一極支配の構図は崩れ、米ドルはいずれ基軸通貨の役割を終えるというのがレイ・ダリオの長期シナリオです。
あくまでも長期的なシナリオで、先進国が再び金融危機に陥るようなら、資本流出などの形でただちに新興国にも悪影響が及びます。
先進国がダメで、新興国が有望という単純な構図を描いているわけではありません。
米国は成長の鈍化を避けられない
リーマンショックによる金融危機後、真っ先に金融緩和に踏み切ったバーナンキ前FRB議長は、世界経済を大恐慌から救った金融政策の達人とも言えます。
ただし、FRBは政府のように財政支出でインフラを整備したり、困っている人に財政支援したりすることはできません。
できるのは、市場から国債をなどを買い入れる量的緩和によって金利を下げ、より高い運用益が期待できる株式市場に資金が回りやすくすることです。
株高になれば、株式を持つ個人の金融資産の価値が増え、懐具合のよくなった個人が消費にお金を回し、それが雇用などの実体経済を最善させることができます。
FRBの大胆な金融緩和は、米国株の過去最高値更新を成し遂げました。
しかし、株高による資産効果が個人消費を刺激するという実体経済への影響は日に日に薄れています。
そして、金融緩和の終了と利上げにより、少なくとも今後数年は、株式相場は年平均で4%程度のリターンしか生み出せないというのがレイ・ダリオの見立てなのです。
ギリシャを中心とした南欧諸国の債務危機により欧州の未来は暗い
欧州の未来については悲観的です。
単一通貨ユーロのもと、金融政策を策定する中央銀行はECB(欧州中央銀行)一つしかありません。
2015年3月から始まった金融緩和も、ECBへの出資比率に応じて決まり、出資筆頭国ドイツの国債買い入れ枠の4分の1を占める一方、南欧諸国の買い入れは非常に少ないのです。
このため各国の必要に応じて、適切な金融緩和をすることができないと考えており、日米の量的緩和と同じような効果は期待できないと考えています。
ユーロ圏では深刻な財政問題を抱える南欧諸国と、景気が底堅いドイツでは求められる金融政策が違うからです。
この矛盾を市場が付く形で、10〜11年にかけてギリシャを中心とした南欧諸国を震源とした債務危機が表面化したのです。
スペインやイタリアなど南欧諸国のデレバレッジはまだ始まったばかりで、南欧政府には財政支出の余力はなく、域内の銀行も自らの財務改善が待ったなしで、融資を増やす余裕などありません。
また、失業率が高く、財政の健全化が遅れるフランスについても懸念を示しています。
レイ・ダリオが語った日本復活の条件
先進国の中で最も深刻なデレバレッジに直面してきたのが日本です。
レイ・ダリオが2012年に直接インタビューした時には、日本についてこう指摘しました。
「国民の貯蓄率の高さもあり、日本政府は長い間、国債発行による資金調達に苦労してこなかった。だが、社会の高齢化が進むにつれて貯蓄を取り崩す動きが広がれば、日本国債の需要バランスは崩れてしまう。」
「日銀が紙幣を増刷して量的緩和を実施し、円安にすることが負債の圧縮につながる。何もしなければ今後2〜3年で日本の債務問題は深刻な状況になるだろう。」
レイ・ダリオの懸念は、日銀も共有していました。
日銀は2013年4月に強力な金融緩和に踏み切り、2012年後半まで1ドル70円台まで急騰していた円相場は、2013年後半には100円台を割り込む水準まで円安・ドル高が進みました。
「日銀の大規模緩和の効果はいずれ薄らいでいく。もう一段の積極策が必要だ」
レイ・ダリオはある講演会でこう語り、日銀の緩和策には一定の評価はしつつも、まだまだできることはあるとの見方を示しました。
それに応えるかのように、2014年10月末、日銀は第二弾の金融緩和を発動し、2015年には1ドル120円以上の水準まで円安・ドル高に進みました。
レイ・ダリオはこれまでもデレバレッジを解消するためには、名目成長率が名目金利を上回る状況を作り出し、GDPに対する負債の比率を減らしていくことが必要不可欠だと訴えてきました。
日本の復活には、日銀が長期金利を低く抑え、国全体を向上させる不断の取り組みが必要だと考えているようです。
新興国の懸念される材料
2013年5月にバーナンキFRB議長が量的緩和を縮小する可能性に言及すると、世界的に緩和マネーの巻き戻しが起きました。
最大の標的になったのは新興国です。
海外マネーが大量に流れ出し、多くの新興国の通貨が急落したのです。
このあたりから、投資家の新興国を見る視線は変わり、高い成長が期待できる地から、まだまだ地盤の緩い不安定な投資先へと評価が下がりました。
※私(当ブログの管理人)は、緩和マネーの巻き戻しは一時的な影響だと考えており、将来的に、新興国は自国の成長力がリスクを解消すると考えています。
これらの状況の中で有望(リスクヘッジできる)なのは金(ゴールド)への投資
ヘッジファンドには特定の市場や企業に集中投資することで、高い収益を狙う投資家が多いのですが、レイ・ダリオはその逆です。
常時、100以上の世界中の金融資産に投資をし、極端なリスクを取らないようにし、分散投資を徹底しています。
その過程で外せないのが金(ゴールド)への投資なのです。
日米欧の金融緩和で、世界にはマネーが溢れているため、既存の通貨の価値が見えにくくなる中、代用通貨としての役割を持つ金(ゴールド)を保有しておくことは理にかないます。
運用資産の1割ほど投資をしておけば、リスクヘッジとしても機能し、「経済や歴史を知っているならば、金を全く持たないという合理的な説明は成り立たない」とレイ・ダリオは語っています。
まとめ
- 信用の膨張と収縮という視点で世界を見ないと金融危機は再び起きる
- レイ・ダリオが考える世界経済の未来
米国は成長の鈍化を避けられない
ギリシャを中心とした南欧諸国の債務危機により欧州の未来は暗い
日本復活の条件は金融緩和
新興国の懸念される材料は緩和マネーの巻き戻し - これらの状況の中で有望(リスクヘッジできる)なのは金(ゴールド)への投資