REITの仕組みを知りリスクを抑えて安定的な利回りを得るためのオススメ銘柄選択方法
安定した投資は、先進国の債券や株式だけではなく、不動産投資からも得られます。
しかし、不動産投資と聞くと、高額な賃貸マンションや一戸建てを購入しなくてはならないと思われますが、世界の金融市場には、REITと呼ばれる不動産関連の金融商品があります。
債券や株式投資などと比べると、まだまだ歴史の浅いREITですが、株式投資と同じように売買できたり、ポートフォリオに組み込むことでより安定した利回りを得れたりと、様々なメリットがあります。
そこで今回は、私たちに最も身近な日本の不動産に投資できるJ−REITの概要やREITの仕組み、簡単な銘柄選択についてなどをご紹介します。
REITとは投資家から集めたお金で機関投資家が不動産投資をする仕組み
REITとは、Real Estate Investment Trustの略で、投資家から集めた資金に銀行借入を使ってレバレッジをかけて不動産を購入し、その賃貸収入と将来的には物件の売却益を投資家に分配するシステムです。
そして、日本のREITである『J−REIT』は、2001年に不動産投資信託として上場しました。
当初は投資家からの認知度は低かったのですが、2007年のファンドバブルで一躍人気が出ました。
米国住宅バブルで2007年頃のJ−REITは一気に注目され崩壊していった
サブプライムローン問題・リーマンショックが起こる前年である2007年は、米国住宅バブルで溢れかえった投資マネーが日本にも流れ込み、不動産ファンドから企業買収ファンドまで、多くのファンドが組成された時期でした。
その時には、J−REIT市場も莫大な額の不動産が証券化され、大型の取引が相次ぎました。
さらに、米国系だけでなく、世界中から日本の不動産市場に参入するファンドが集まり、日本のバブル期以降から低迷していたリゾート開発などに注目が集まったのです。
J−REIT市場は本格的なバブルを予感させたがリーマンショックにより崩壊
J-REIT市場では、当初計画されていた利回りで購入できる物件がなくなるほどに市場が過熱していたため、今後、賃料は値上がりするというシナリオを作り上げ、その高い賃料を根拠とした購入基準に変更して買い進む機関投資家も多くいました。
また、オフィス物件に割安な賃料で入居していたテナントに賃料値上げを要求するなど、高い購入価格を正当化するために、無謀な運営をしていました。
このように過熱しすぎた市場では、本来の価値よりかけ離れた価格で取引されたり、誰も購入することがないような物件が取引されたりと、異常な市場になってしまい、いつしかREITは不良物件のゴミ箱と呼ばれるようになりました。
そして、サブプライム危機によりJ-REITのプチバブルは終焉を迎えます。
J-REIT市場は、本格的なバブルを迎えることなく、株式市場と同様にREIT市場も、米国系ファンドを中心に一気に資金が引き上げられ、本来の適正価格かそれ以下の水準まで落ち込みました。
日銀の経済対策と金融緩和で再び注目を浴びるJ-REIT市場
サブプライム危機後、低迷を続けていたJ-REIT市場も、2010年末にデフレ脱却のための経済対策として、日銀がJ-REITなどの資産を継続的に購入すると発表したことを受け、再び注目が集まります。
さらに、近年の金融緩和やマイナス金利政策(2016年から)も相まって、2014年頃には、サブプライム危機前の最高値圏まで値を戻し推移しています。
なお、近年では、REITの物件取得基準や、運営体制は、米国住宅バブルの時に比べて、管理コストの削減や利益相反の排除、合理的な価格での物件取得など、多くの面で洗練され、適正な取引が行われるようになりました。
REITは内情を把握しやすく条約のあるレバレッジを利用して収益を高めている
REITは、有価証券報告書を見ただけでは経営の詳細がわかりにくい一般の上場企業よりも、内情を把握しやすいのです。
J−REIT銘柄ですと、各投資法人のウェブサイトから、保有物件、借入金、管理コストの一覧をダウンロードできるようになっており、非常に透明度の高い情報公開をしています。
また、REITは投資家から集めた資金を自己資金として銀行から借入(レバレッジ)を利用して不動産を購入します。
J−REITの場合ですと、多くの銘柄は、物件価格に対して半分程度の自己資金を集め、残りの半分は銀行の借入に頼っています。
この場合、借入比率は50%です。
REITの世界ではこれを、LTV(Loan To Value)50%と言います。
LTVが高ければ、少ない自己資金をもとに多額の借入を起こして大型物件を購入でき、低い借入金利とそれよりも高い賃料収入の差額を投資家に分配できます。
近年のように、低金利が続くのであれば、仮に不動産からあがる収益力が低くても、借入比率が高ければ分配金の額を高くすることができるのです。
借入比率(LTV)が高すぎるとロスカットを課せられる場合がある
借入比率(LTV)が高いと分配金を高めることができますが、借入比率(LTV)を高めすぎるとリスクが伴います。
REITが銀行から資金を借りる際の契約は、個人の住宅ローンと異なり、様々な制約を課せられます。
例えば、決算期ごとに鑑定評価という保有物件をおおよその時価で評価し、時価よりも借入金の方が多い債務超過の状態に陥った場合、借入金を返済する義務があります。
株式投資の信用取引と同じように、株価の値下がりによるロスカットと同じです。
金利上昇も大きいリスクになる
また、借入比率(LTV)が高い場合、金利上昇時の金利支払いも大幅に増えることになります。
これを避けるために、REITは金利スワップという変動金利を固定金利に変える契約をしたり、金利キャップという変動金利の上昇上限を定める契約をします。
ですが、その契約期間が過ぎた際は、保険料が値上がりしていますので長期的には金利上昇の影響は避けられません。
リスク回避のためREITと銀行の間には条約がある
上記のように、レバレッジを高めすぎると、保有している不動産価格が下落した際に、ロスカットされるリスク、借入金利上昇の際に財務を圧迫するリスクなどの問題があり、個人の不動産投資とは異なり、高いレバレッジはリスクを伴います。
行き過ぎたレバレッジを避けるため、REITと銀行の間にはコベナンツ条項という、借入比率を高め過ぎない、黒字を継続しなければならない、など財務状況を常に健全に保つことを義務付ける約束ごとがあります。
これは、無謀な投資をして破綻することを避けたり、バブルが起きにくい設計になっていると言えます。
REITにはセクター別に投資をする銘柄もあります
日本では、住居、オフィス、店舗、ホテル、に分散投資するREITが主流ですが、物流施設、産業施設に投資するものもあり、これからは高齢者向け住宅に投資するREITも上場が予定されています。
また、米国では、高齢者向け住宅はREITとして定着していますが、その他にも、携帯基地局や民営刑務所までもがREIT化されています。
今後、日本でも、米国を追いかける形のREITや、日本独自のREITも現れるのではないでしょうか。
それでは、それぞれのセクター別に特徴を見てみます。
住居系(安定型)
日本の場合ですと、住居は不況下でも安定した賃貸需要を期待でき、賃料や空室率は景気に左右されにくい特徴があります。
これは、東京都心のような人気のあるエリアは、近隣よりも賃料を下げれば、多少の悪条件を許容しても住みたい人がたくさんいるため、長期の空室は発生しにくいことが理由です。
しかし、景気に左右されにくいのですが、日本には人口減少のリスクがあります。
オフィス・店舗系(景気左右型)
法人向けのオフィスビルや路面店舗は、住居系よりも高い利回りを期待できます。
しかし、立地や面積が企業の需要に合わない場合、空室が長期化する可能性があります。
また、景気に大きく左右され、景気がいい時期には、一等地に立地することの多いオフィス、店舗系の賃料は高く取れ、物件価格も高騰する傾向にあります。
オフィスビルには住居系と違い賃貸募集の課題があります。
大規模テナント1社でビル1棟ごと借りているケースの場合、そのテナントが退去してしまうと、次に入居するテナントを再募集する際、大きなコストと時間がかかる場合(空室リスク)があります。
米国では、このようなリスクを吸収するため、あまり大きくないオフィスビルのみを集めて保有し、空室リスクをヘッジしながら高利回りを目指すというREITもあります。
ホテル系(景気左右型)
REITがホテルの大家となり、オペレーターと呼ばれる運営会社にホテル物件を賃貸して固定賃料を得るなど、物件所有者と運営者は別の会社となるのが一般的です。
また、ホテルの売上に応じて賃料を変動性にしたり、REIT自らが空室リスクを取ってホテルを運営するなど、大家とホテル経営を行う業態のREITもあります。
ホテル系もオフィス・店舗系と同じように、景気に左右され、景気がいい時には、物件価格も空室リスクも少なくなりやすい不動産です。
REITは規定を満たせば法人税を支払わなくていい
REITは、利益の9割以上を投資家に分配するなど、導管性要件といわれる規定を満たすことを条件に、法人税を支払わなくていいことになっています。
さらに、信託受益権という方法を使うことにより、登録免許税と不動産取得税の支払もせずに済んでいます。
※私たちがREITから得た分配金は税金が発生します。
REITは分配金の分析やNAV・NOI利回りを見極めて銘柄選択すること
それでは実際に、REITの銘柄を選択しようとした際、どのような指標を見て銘柄選びをすればよいのでしょうか?
REITの指標には、分配金、NAV(解散価値)、NOI利回り(単年度利回り)という指標を見て、分析し銘柄を選択していきます。
REIT銘柄の分配金だけで判断しないこと
REITの銘柄選びの基準として、一番わかりやすく見れる指標は、分配金です。
しかし、長期投資で資産運用を目的とするならば、分配金だけで銘柄選びをするのは危険です。
それは、高いレバレッジをかけて高リスクの不動産を保有すれば、高い分配金を払い出すことは容易なことだからです。
レバレッジを大きくかけて、高い分配金を払い出しているだけのREIT銘柄は、大口テナント退去や借入金利上昇などの問題が発生した場合、分配金や投資口価格が大きく下落してしまうリスクがあります。
当期利益を越える分配金には注意する
近年のJ−REITでは、負ののれんや投資信託協会の規則という会計上のルールを利用し、当期利益を越える分配金を出すことも認められており、分配金は必ずしも当期の賃貸収入が原資とは限りません。
当期利益を越える分配金は、不動産の値上がり評価益をあてにして先に分配してしまうものであったり、減価償却費という建物の経年劣化による価格下落を先送りにして分配金に回していると考えられる可能性があります。
このように会計上のルールを利用し、分配金を多く払い出すことで、投資家から資金を集めたり、資金の引き上げを抑えたりし、問題を先延ばしにしている銘柄もありますので、注意してください。
分配金だけではなく不動産資産の本来の価値を見極める
REITに長期投資するのであれば、たとえ少ない資金だとしても、REIT銘柄が保有している不動産を丸ごと買い取るつもりで銘柄選びをしてください。
保有している不動産の時価、不動産や賃料の値上がり期待、賃貸入居の安定性、利上げや大口テナントの退去などの問題が発生した時に対処できるか(十分な資金やグループ会社の支援など)を見極める必要があります。
また、当期にどの程度の賃料収入を得て、それに対する経費はどれほどかや、適正な利回りで新規物件を取得できているかなども見ましょう。
REITの割安銘柄を見つける指標が『解散価値(NAV)』
REITの解散価値(NAV)とは、保有している物件を全て売却し、その売却金で借入金を全て返済し、投資法人を解散した時に手元にお金がいくら残るかを表す数値です。
例えば、10億円のビルを保有していて、借入金が6億あれば、純資産すなわち解散価値(NAV)は4億円です。
そのため、REITの投資口価格とNAVが同じ価格であれば、純資産倍率1倍となり、公平な値付けがされていると考えられます。
しかし、景気がいい時は、1株あたりのNAVを大幅に上回る価格でREIT銘柄が取引されるこもあります。
簡単に説明すると、100万円の入った箱を120万円で買うようなもので、理論的には物件価格がそこまで上昇しない限りは、いつか必ず投資口価格は下がり、損が出る計算です。
一般企業の株式はPBRを大きく越えて買われるがREITはNAVを越えることは望ましくない
一般企業の株は純資産倍率(PBR)を越えて買い進まれることが一般的ですが、REITはNAVを越えた評価をつけることに慎重にならなくてはいけません。
一般企業では、資産が少なくても、増収増益を続ける期待をもとに、高い株価収益率を達成する見込みを得れることもありますが、REITの場合、突然ヒット商品を生み出して、1株あたりの利益が急増することはありません。
REITの収益源は不動産からの賃料収入と転売益だけですので、賃料収入または物件価格に大幅な先高感がない限り、解散価値(NAV)を越えて買い進まれることは望ましくありません。
NOI利回り(単年度利回り)でREIT銘柄を選ぶ
保有している物件からどれだけの賃料(経費を差し引いた利益)を得られているかを示す『NOI』と、それを不動産取得価格で割り算した指標を『NOI利回り(単年度利回り)』といいます。
通常、NOI利回りは、ファンドが物件を購入した時の取得価格である簿価を分母として計算し、ファンドが適切な価格で物件を購入できているかを評価したり、物件の時価である勘定評価額を分母として計算し、現在の不動産市況の値ごろ感をチェックするために計算されます。
しかし、REITを購入する投資家は、簿価や勘定評価額で投資口を購入するわけではありませんので、REITの資産を整理して、現在の投資口価格でREIT銘柄を購入した場合のNOI利回りを考える必要があります。
日銀による買い入れで割高になってしまったREITも株価暴落により割安で買えるチャンスがある
現在(2016年中頃)のJ−REIT銘柄は、日銀によるJ−REIT買い入れで、解散価値(NAV)を上回る価格で買い進まれています。
また、現在のREIT保有者の多くは、投資信託経由の個人投資家、地銀や信金などの不動産評価に慣れていない投資家であることも、解散価値以上に買い進まれている要因だと思われます。
そのため、REIT銘柄の内実はあまり分析されず、REIT本来の価値である解散価値(NAV)やNOI利回り(単年度利回り)を無視して、相場感でREITが買い進まれているように感じます。
特徴として、株式市場の動きに連動して上下します。
これは逆に考えると、株式市場の大暴落で本来の価値以上にJ−REIT銘柄が売り込まれる可能性が高いので、この時に購入すれば、非常に割安な価格でJ−REIT銘柄を購入できるチャンスが巡ってくるといえます。
サブプライム危機の時にも同じようなことが起こったので、その時にJ−REIT銘柄を購入した人は、大きな利益を得たのです。
まとめ
- REITとは投資家から集めたお金で機関投資家が不動産投資をする仕組み
- 米国住宅バブルで2007年頃のJ−REITは一気に注目され崩壊していった
J−REIT市場は本格的なバブルを予感させたがリーマンショックにより崩壊
日銀の経済対策と金融緩和で再び注目を浴びるJ-REIT市場 - REITは内情を把握しやすく条約のあるレバレッジを利用して収益を高めている
借入比率(LTV)が高すぎるとロスカットを課せられる場合がある
金利上昇も大きいリスクになる
リスク回避のためREITと銀行の間には条約がある - REITにはセクター別に投資をする銘柄もあります
- REITは規定を満たせば法人税を支払わなくていい
- REITは分配金の分析やNAV・NOI利回りを見極めて銘柄選択すること
REIT銘柄の分配金だけで判断しないこと
当期利益を越える分配金には注意する
分配金だけではなく不動産資産の本来の価値を見極める
REITの割安銘柄を見つける指標が『解散価値(NAV)』
一般企業の株式はPBRを大きく越えて買われるがREITはNAVを越えることは望ましくない
NOI利回り(単年度利回り)でREIT銘柄を選ぶ - 日銀による買い入れで割高になってしまったREITも株価暴落により割安で買えるチャンスがある