デビット・アインホーンから学ぶ投資の心得『本当に正しい情況を見抜く投資術』
有力ヘッジファンド、グリーンライト・キャピタル創業者。
2008年9月に破綻したリーマン・ブラザーズの経営不振を見抜いた、空売りの旗手。
買い物の手掛け、アップル株を長期保有している。
96年にファンド設立以来の運用利回りは年率約20%。
14年にりそなホールディングスへの投資を明らかにするなど日本市場への関心を高めている。
不動産開発大手セント・ジョーの例で見るデビット・アインホーンの分析力
不動産開発大手セント・ジョーは、パナマシティにある、富豪の人や寒い冬を避けてやってくるセカンド・ホームとして有名な「サンシャイン・ステート」に行きます。
それは、不動産開発が遅れているパナマシティに注目したからです。
不動産バブル崩壊でセント・ジョーの実質的な評価額を見抜いた
パナマシティのリゾート開発の主導をしており、巨額の資金を投じてリゾート化を推進しましたが、計画通りに事は進みません。
バブル崩壊でいたるところに売り出し中の看板が多く掲げられていたからです。
そして追い打ちをかけるように、年に一度の金融会合バリュー・インベスティング・コングレイスの満席の会場で著名投資家デビット・アインホーンが、「セント・ジョーは保有不動産を実態よりも過大に評価している」と言い、セント・ジョーの分譲地であるゴーストタウンの様子をビデオで撮影した様子や、さらに現地で登記簿を調べ、ほとんどが売れ残っている事実を講演しました。
デビット・アインホーンは批判したうえで「20〜28ドルで推移してきた株価は、実態は5〜7ドルの価値しかない」と結論付けました。
デビット・アインホーンの絶大な知名度と、その評価を支える徹底した調査能力で市場は瞬く間に反応し、講演後から約40分で不動産開発大手セント・ジョーの株価は10%急落しました。
リーマンショックでデビット・アインホーンの評価は不動のものとなる
デビット・アインホーンの評価を不動にしたのが金融危機です。
金融危機のピークが、2008年9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻です。
リーマン・ブラザーズは、自己資金を使ってリスクの高い投資に走り、レバレッジで利益を膨らませました。
だがデビット・アインホーンはリーマンの不透明な会計処理に誰よりも早く気付き、同社の株式を空売りしました。
それを公言することで、リーマン・ブラザーズは破綻まで一気に追い詰められていきます。
リーマン・ブラザーズが抱えていた債務担保保証券を見逃さなかった
その当時はサブプライムローン問題が表面化し、住宅ローン関連証券の価格が急落していきました。
ウォール街の金融機関が損失の計上を責められていた中、リーマン・ブラザーズだけがほとんど無傷であることに疑問を抱きます。
デビット・アインホーンは決算発表の資料を分析して、SECに正式な四半期決算の報告書の56ページ目に65億ドルの債務担保保証券を保有していることを見逃さなかったのです。
さらにデビット・アインホーンは講演前に、レーマンのエリン・キャラン最高財務責任者と直接やり取りしました。
だが、納得できる答えが得られませんでした。
リーマンショックが起きる前に警鐘を鳴らしたが市場からはバッシングを受ける
デビット・アインホーンは講演で「SEC委員長、FRB議長、財務長官にはリーマンがもたらす金融システムのリスクに気づいて欲しい。リーマンが損失を計上し、資本を強化するように促して欲しい。願わくば、税金による公的資金の注入が必要となる前に」と言い放ち、警鐘を鳴らします。
しかし、講演後は各方面から集中砲火を浴びました。
市場では「細かいところをあげつらっているだけで、いいとこ取りをするに違いない!」と批判されます。
警鐘を鳴らしたデビット・アインホーンは勝利し批判者達は敗北した
大バッシングを受けた講演後、一ヶ月がたった6月中旬、リーマン・ブラザーズが発表した3〜5月期決算は上場来で初めての最終赤字になりました。
ここで一気に転落劇が起きます。
リーマンはCFO職を解かれ、株は下げが止まらなくなります。
その出来事により、金融市場の信用不安はピークに達し、米国発の金融危機は世界中を巻き込んだ大惨事になりました。
批判を浴びながらも、自らの信念を貫いた結果、リーマン・ブラザーズに勝利したのは、デビット・アインホーンでした。
このときから、凄腕の投資家としての評価は不動なものになっていきました。
リーマンショックによる金融危機は2つの不信感を植え付けた
2008年に起きたリーマンショックは、市場に2つの不信感を植え付けました。
一つは、絶対的な信用を得なければいけない金融機関への不信です。
レバレッジを過度に膨らませたリーマン・ブラザーズをはじめとする金融機関のやり過ぎを、SECが放任してきたのは許されることではないことです。
本当に正しい情報を提示しているのか。
実態よりも経営者が多くの報酬をもらっていないのか。
企業の不正にもっと目を向けるべきではないのか。
二つ目は、メディア報道のあり方です。
経営陣は空売り投資家を悪者扱いにしてきて、メディアも一方的に決めつけられました。
不正の空売りを詳しく説明しましたが、記者はそれでも正面から取り上げることはなかったです。
デビット・アインホーンはそれに対し、メディアは複雑な金融事件の徹底的な調査を驚くほど嫌がっていることを学びました。
正しく報道をできる人材がいないことに気がつきました。
時には失敗もあった過去
デビット・アインホーンはリーマンショックの勝負で名を馳せましたが、それまでは旧式のコンピューターの教育関連会社を空売りで、株価が上昇してしまい、買い戻して損失を確定させました。
しかしその後、同社は収益悪化で株価が急落する。などの失敗もありました。
デビット・アインホーンは失敗はしましたが、強い意志や辛抱強くならなければならないことを学んだと言います。
空売り投資家は辛抱強さが求められる投資スタイル
空売りでの成果はすぐに出るものではなく、損失していくが、ある日突然大きな利益が出るということがあります。
このケースが多くを占めています。
時には、たった1日で利益が出ることもありますが。
周囲の悪い出来事などがあると、市場が気を引き締めて株価が急落する。という局面で、空売りの投資家は報われます。
空売りの投資家は人一倍、辛抱強さが求められる投資のスタイルと言えます。
ウォーレン・バフェットを尊敬するデビット・アインホーン
デビット・アインホーンには忘れられない思い出があります。
それは、有名なステーキ店でデビット・アインホーンが尊敬しているウォーレン・バフェットに会ったことです。
デビット・アインホーンは慈善活動の一環としてウォーレン・バフェットとランチをする権利を入札し、25万ドルで落札しました。
ランチ中はウォーレン・バフェットが10代の頃に株の空売りをした思い出や、空売りで利益を上げる難しさについて語ったと言います。
ウォーレン・バフェットの企業の価値を見抜く力に勝てる者はいない
なぜ、デビット・アインホーンはウォーレン・バフェットを尊敬しているのかというと、企業の本質的な価値を見抜く能力においてウォーレン・バフェットに勝てる者はいないからです。
ウォーレン・バフェットは莫大な情報を集め、経営の収益力などを分析することによって、バリュー株の発掘で世界の大富豪となり、世界から尊敬される存在になったのです。
正反対にも見える投資法ですが投資哲学の深いところで繋がっている二人
デビット・アインホーンは空売りの名手としてウォール街の注目を浴びてきました。
両者とも違いがあるように思えますが、投資哲学の深いところで繋がっています。
それは、財務報告書などを徹底的に読み込んで企業の価値を見抜く姿勢です。
妥協のない分析はどちらも通じています。
デビット・アインホーンはセント・ジョーの一件でも5年の調査期間を要しました。
これは妥協のない分析と言えます。
他にも似ているところが、マージン・オブ・セーフティーを何よりも重視してきたからです。
デビット・アインホーン流のマージン・オブ・セーフティーの理念
例えば検討している企業を10までのランク付けをする。
1が値上がり率が期待できる、10が空売りで最も収益が見込めるとすると、普通なら買いは3、4で、空売りなら7、8にするのが妥当です。
ですが、デビット・アインホーンは違います。
「買いは1、2で空売りの場合は9、10に該当する確信が持てないと投資はしない」と断言します。
これは、万が一株価の流れが思惑通りにならなくても大きな損失を被る可能性は低く、思い通りになれば得られる収益はとても大きくなるということです。
だが、言うことは簡単だが実に難しいです。
なぜかというと、他の人よりもはるかに根気と分析力がなければ確信を得られないからです。
そして投資のたびに資金を失わないように心がけています。
デビット・アインホーンは常に思考を巡らせ、相手のことを理解し、自問自答を繰り返さなければ、投資家として生き残れないと言います。
買いと空売りにもそれぞれメリットがありますが、投資で利益を出すことはもちろんですが、資金を失わないことが重要です。
それがマージン・オブ・セーフティーにそのままつながる理念です。
まとめ
- 不動産開発大手セント・ジョーの例で見るデビット・アインホーンの分析力
不動産バブル崩壊でセント・ジョーの実質的な評価額を見抜いた - リーマンショックでデビット・アインホーンの評価は不動のものとなる
リーマン・ブラザーズが抱えていた債務担保保証券を見逃さなかった - 空売り投資家は辛抱強さが求められる投資スタイル
- ウォーレン・バフェットを尊敬するデビット・アインホーン
ウォーレン・バフェットの企業の価値を見抜く力に勝てる者はいない - デビット・アインホーン流のマージン・オブ・セーフティーの理念
買いは1、2で空売りの場合は9、10に該当する確信が持てないと投資はしない
常に思考を巡らせ、相手のことを理解し、自問自答を繰り返さなければ、投資家として生き残れない