固定相場制のメリットとリスクは外貨準備が明暗を分ける
日米欧などの常識に慣れていると、為替は自由に取引され、市場の動向によって交換レートが決まるのが当たり前に思えますが、為替レートが固定されている国も多くあります。
しかし、固定相場制には様々なメリットとデメリットがあり、その明暗を分けているのが外貨準備です。
そこで今回は、固定相場制をとっている国のメリットとデメリットや、かつて固定相場制をとっていた国が通貨危機に陥ってしまった経緯などを見てみます。
香港やアラブ諸国など為替が変動しない通貨がある
香港やアラブ諸国などは、政府が米ドルとの交換比率を定め、事実上、交換比率を固定しています。
また、EU周辺国とアフリカの多くの国は、ユーロに対して固定されています。
これは、国の規模が小さすぎて、インフレ率を見ながら通貨の流通をコントロールするなどの金融政策を運用できる能力がない場合、もしくは、貿易の有利を考えた場合、輸出先である米国やユーロ圏に対して固定相場としておけば、為替変動に翻弄されない安定したビジネスができると考えられる場合などに採用されています。
中国の固定相場制が驚異的な経済成長をもたらした
為替の固定相場制(ペッグ制)でもっとも有名な国は中国です。
中国元は、市場で取引されていますが、その価格は中国の国策により米ドルと連動しています。
詳しく説明すると、何処かの国が「我が国の通貨は、今日から米ドルと同じ価値とみなす」と固定相場を宣言しても、政府が責任を持って両替を保証することをしなければ、自国通貨と米ドルの両替比率は維持できません。
そのため、国は、通常の両替需要の数ヶ月分という十分な米ドルなどを外貨両替対応のために保有しており、これを外貨準備といいます。
世界で見ると390兆円相当(2014年)を超える外貨準備を保有する中国を筆頭に、日本が126兆円(2014年)と続きます。
中国が世界一位の外貨準備を集めれたのには理由がある
中国元は、以前より購買力平価などから説明できる実勢為替レートよりも割安な値付けをされていることが指摘されてきました。
つまり、中国は米ドルで入金した貿易の儲けを、国内の経営者や労働者が仕入れや生活のために中国元に両替しようとした時、1米ドルに対して大量の中国元を与えていたということです。
そのため、中国企業から見れば、少量の米ドルをもらっただけでも中国元に両替すれば大金を得られるため、たくさんの労働力や安価に外国に提供することができるのです。
それは、貿易の観点から見れば価格競争力がつくことを意味していますので、割安な中国製品は世界中に受け入れられ、大量の外貨を得ることができたというわけです。
新興国の固定相場制は大きなリスクがある
同じ固定相場制でも小規模な新興国では事情が異なります。
中国の場合は、自国の通貨価値を割安に設定することにより米ドルを集めていましたが、小規模な新興国では、逆に自国通貨に割高な値段をつけて売買している国も少なくありません。
適切な価格が付けられていない割高な通貨には売りが浴びせられる
適切な価格が付けられていない通貨でも、外貨準備がたくさんあれば、自国通貨売りの両替による米ドル流出に対して、手持ちの米ドルを差し出せばいいのです。また、資金流入の場合は、自国通貨を増刷して両替に応じればいいわけですから、固定相場制は維持できます。
しかし、実態よりも割高な通貨に対しては裁定が入るのが市場の原理ですので、このような場合、割高な通貨価値を察知したヘッジファンドなどから新興国通貨の売り、米ドルの買いという注文が出されてしまいます。
このような攻撃から通貨を守るために、新興国は、短期金利を引き上げ、高金利を払い出す通貨としての魅力付けをして買いを呼び込み、また、スワップ金利がマイナス(売り方に金利の支払いが発生)になるようにして売りを抑制することが手段として選ばれますが、それでもなお売りを浴びせられれば、新興国からは米ドルが放出され、外貨準備は底を尽きることとなります。
そうなれば、それ以上の両替には応じられなくなるため、実態を反映した安価な為替レートに価格を切り下げるか、変動相場制に移行することを余儀なくされます。
その結果、割高な固定相場のレートで大量に売り、後日、安いレートで買い戻したヘッジファンドは莫大な利益を得られ、新興国は損を被る仕組みです。
このような攻撃により変動相場制に移行した国としては、1992年にジョージ・ソロスにポンド売りを仕掛けられたイギリス、アジア通貨危機と呼ばれた1997年のタイなどが有名です。
日本の外貨準備は円建て債券を米ドルに両替したもの
日本の場合は、変動相場制を採用していますので、国が両替を仕切ることはなく、外貨準備が積み上がるのも異なる理由があります。
日本の外貨準備資金を管理している外国為替資金特別会計のバランスシートを見てみると、実は債務超過になっています。
1米ドル360円の時代(米ドルと日本円の歴史)から米ドルを買わせられてきたため、日本政府が行うFX投資は累積マイナスなのです。
では、126兆円の資産とは何なのでしょうか?
外貨準備とは、政府短期債(FB)という円建ての債券を発行し、これを米ドルに両替して保有しているものです。
※ちなみに、この円建ての債券は、日本の借金1000兆円に含まれています。
そのため、仮に126兆円を取り崩すのであれば(政治的に不可能)先に資金の出元であるFBを返済しなければならないため、手元に126兆円が残るわけではありません。
このように、国内から円建てで借金をして長期で米ドルを保有しているだけ。というのが日本の外貨準備の正体です。
例えるなら、親戚から借りたお金で長期の外貨預金をしているようなもので、本人は何も持っていないというわけです。
日本の債務超過は財政を圧迫していない
また、債務超過になっている外国為替資金特別会計の損は、財政を圧迫しているわけではありません。
その時代に予算化された日本円を米ドルに両替して長期保有しているだけですので、時価で評価すると12.7兆円ほど累損を抱えており、損が出ていることに間違いはないのですが、単なる外貨両替の長期保有に過ぎません。
そのため、この外貨準備を取り崩さない限りは、ここに税金を追加投入して穴埋めする必要はないのです。
まとめ
- 香港やアラブ諸国など為替が変動しない通貨がある
- 中国の固定相場制が驚異的な経済成長をもたらした
- 中国が世界一位の外貨準備を集めれたのには理由がある
- 新興国の固定相場制は大きなリスクがある
- 適切な価格が付けられていない割高な通貨には売りが浴びせられる
- 日本の外貨準備は円建て債券を米ドルに両替したもの
- 日本の債務超過は財政を圧迫していない