原油価格を暴落させた要因と原油の歴史と未来『需要と供給のバランス』
以前お伝えした金とビットコインは通貨より信用できるのか通貨の代わりになれるのか『金価格の歴史』の中の金と同様に、原油も有力な実物資産とみなされています。
原油の価格を左右する要因には、新興国の経済発展による需要と、米国のシェール革命による供給があります。
この2つの要素のどちらかに偏ってしまうと、原油の需要と供給のバランスが崩れ、価格の変動が大きくなると考えられます。
原油価格は需要と供給のバランスで変動する歴史がある
近代工業化以降、1900年代に入るまで、産業の基本となるエネルギー源は石炭でした。
しかし、1860年前後に石油の精製技術が開発され、相次ぐ油田の採掘によって原油価格が大幅に下落します。
そして、1890年頃から、本格的に石油が工業利用されるようになってきました。
戦争によって石油の需要が格段に上がった
1900年代に入ると、艦船の動力源が石炭から石油へと切り替わり、第一次世界大戦前後には石油へのシフトが急速に進みました。
最終的に石炭は暖房用途や一部火力発電など、コスト面で制約がある分野でしか使われなくなりました。
原油の安定的な供給は、世界的な経済成長のエンジンですから、米国は世界戦略の一つとして、原油の支配を第一に考えてきました。その結果、第二次世界大戦後、しばらくの間は、石油の価格は安定的に推移してきたのです。
オイルショックがもたらした原油価格の大きな変動
1970年代に起こった、2度にわたるオイルショックが、原油価格の急騰を引き起こしました。
オイルショックは産油国の状況で世界経済が大きな影響を受けることを多くの人が身をもって体験したのです。
その後オイルショックの影響は沈静化しましたが、2000年代に入り、再び原油価格が大きく動き始めたのです。
2000年代は新興国による石油の過剰な需要が予想され価格急騰をもたらした
2000年代に入り、中国を中心とした、新興国の急速な経済発展によって石油の需要が急増し、石油が足りなくなってしまうのではないかという危機感から、原油価格の急騰をもたらしました。
リーマンショック前の好景気の時期から、その傾向が非常に強まり、原油価格は一気に上昇し、2005年には1バレル60ドル台だった原油価格は新興国の需要拡大の懸念から、2008年には130ドル台まで高騰しました。
リーマンショックで一時的に下落したものの、その後も勢いは衰えず、2012年以降は100ドルを超える価格で推移することが多くなりました。
新興国の経済成長の鈍化と産油国の減産見送りなどで2014年後半から原油価格が下落している
2014年後半から、中国だけでなく、BRICsや東南アジアなどの経済成長の鈍化や、米国のシェールオイルの増産、産油国の減産見送りなどが重なり、2015年8月現在では、1バレル45.15ドルまで下落しています。
オイルショック以降不安定になった原油価格
原油の精製方法が確立し、生産が安定してきた1890年以降、原油価格は長期にわたって安定的に推移してきました。
第一次世界大戦や第二次世界大戦など、供給が増大する事態の発生で一時的な値上がりが見られましたが、それほど大きな動きではありませんでした。
この状況が大きく変わったのは、オイルショック以降ということになります。
オイルショックは、非常に政治的な要素が強く、このことが不安を増大させた可能性があります。
しかし、リーマンショック前から2014年前半までの100ドルを超える原油価格の高騰は、オイルショックに匹敵するレベルと考えることができます。
ですので、100年以上の長いスパンで考えると、2015年現在の価格が決して暴落した価格(安すぎる価格)とは言えないのです。
供給過剰な原油は今後価格が急速に上昇はしないと考える
米国におけるシェールオイル開発が進展していることで、米国がエネルギーの自給が可能となりつつあります。
現在、米国は自国が消費するエネルギーの8割を自給できる状況となっています。しかし、シェールオイル開発が進んだことによって、2035年までにこの比率を9割まで高める方針です。
米国はエネルギーの自給が可能になるからといって、中東からの原油の輸入を停止することは今のところありません。安全保障上の理由があるからです。しかし、米国向けの輸出は徐々に減ってくると考えられます。
米国は世界最大の石油消費国であり産出国でもある
1日あたりの全世界における石油消費量は約9100万バレルなのですが、米国は1900万バレルの石油を消費しています。つまり、米国だけで世界の石油の2割を消費しているのです。
米国における石油消費量1900万バレルのうち、1000万バレルは自国で産出されたものです。残りの900万バレルは中東など海外から輸入されたものになります。
米国の石油自給によって、潜在的には全体の約1割の石油が余る計算になり、これは原油価格にとってかなりの下押し材料となります。
人口増加や新興国の経済成長による需要増加はそれほど高くない
世界の人口は2035年までに20%伸びる見込みですが、その多くはアフリカで、アフリカの石油消費量は1日あたり360万バレル程度しかなく、米国の2割、世界全体の4%程度しかありません。
新興国の経済成長鈍化などを考えても、ここ20年程度の期間では、米国の生産拡大による供給過剰の影響の方が大きいと考えられます。
割安な石炭が石油の代わりに使用される可能性
石炭はその扱いにくさやばい煙の多さなどから敬遠され、国際的に見て供給過剰にあります。
戦前までは石油価格と石炭価格に大きな差はありませんでしたが、戦後、石油への需要が高まるにつれて、石油と石炭の価格に乖離が生じるようになってきました。
石炭は、敬遠されがちとはいえ、火力発電所のエネルギー源としていまでも活用されています。もし、石油価格の高騰が続いた場合には、石炭火力にシフトするという選択肢も残されているわけです。
原子力の未来が変わる可能性
現在、欧州では再生可能エネルギーに対する期待が高くなっており、放射性廃棄物の問題もあり、従来型の原子力は、どちらかというと縮小する方向性と考えられます。
ただ、この状況も永久にそうである保障はありません。
原子力の分野は意外とイノベーションのスピードが遅く、現在主流となっている軽水炉は50年近く、基本的な構造が変わっていません。
しかし、米マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツが、安全レベルの高い小型原発を開発する企業に投資をするなど、原子力の分野にも、いくつかの進歩が出てくるのではないかと期待が持たれています。
もしこの分野で画期的なイノベーションがあった場合には、従来の軽水炉に比べて、より安全に原子力エネルギーを活用できるようになるかもしれません。
そうなってくると、ますます石油へのニーズは低くなると考えられます。
まとめ
- 原油価格は需要と供給のバランスで変動する歴史がある
- 戦争によって石油の需要が格段に上がった
- オイルショックがもたらした原油価格の大きな変動
- 2000年代は新興国による石油の過剰な需要が予想され価格急騰をもたらした
- 新興国の経済成長の鈍化と産油国の減産見送りなどで2014年後半から原油価格が下落している
- オイルショック以降不安定になった原油価格
- 供給過剰な原油は今後価格が急速に上昇はしないと考える
- 米国は世界最大の石油消費国であり産出国でもある
- 人口増加や新興国の経済成長による需要増加はそれほど高くない
- 割安な石炭が石油の代わりに使用される可能性
- 原子力の未来が変わる可能性
結局のところ、石油は、需給的には供給過多の状況になりやすく、産業資源として供給不足になるという事態にはならない可能性が高いと考えます。