ダニエル・ローブから学ぶ投資の心得『株主のための大胆な戦略』
米国を代表する物言う株主。
1995年にサード・ポーイントを創業。
強面で知られ、2012年には投資先ヤフーのCEO更送を主導。
アベノミクスによる日本の変化を期待し、ソニーやソフトバンク、IHIにも投資している。
運用資産は約140億ドルに達する。
前回お伝えしたダニエル・ローブから学ぶ投資の心得『日本株買い』の続きです。
レバレッジをかけて収益を上げているわけではない
ダニエル・ローブは、リーマンショック後の急速な株高の波にも乗り、ファンドの投資収益率は2010年が38%、2011年はほぼ横ばいでしたが、それ以降は2012年が21%、2013年は26%と、ヘッジファンドの業界平均を大きく上回る成績を上げています。
2ケタの高い収益率は、高いリスク(レバレッジ)をとっていると受け止められがちですが、ダニエル・ローブは大胆であると同時に慎重さを持ち合わせた投資家でもあります。
ヘッジファンド業界では、借り入れを膨らませて投資金額を膨らませるレバレッジを活用することが多く、そうすれば、投資が成功した時のリターンを高めることができます。
しかし、そこには罠があります。
レバレッジをかければ、その分だけリスクも高まります。金融危機では流動性が市場から枯渇し、止まらない株価下落の荒波に飲まれるようにファンド勢も投げ売りを迫られました。
この時、過大なレバレッジをかけていたファンドは、すぐに自己資本を食いつぶし、ファンドの清算に追い込まれました。
レバレッジは一見すると魔法のようですが、失敗した時の代償も大きいのです。
ダニエル・ローブは、レバレッジに依存した投資からは距離を置いています。あくまで等身大でどこまで高い収益を上げられるかで勝負しているのです。
経営陣に圧力をかける強面(こわもて)の物言う株主
製品やサービスは有望なのに、経営者の資質に問題がある為に業績が低迷している企業に投資し、その上で、問題をあぶり出します。
劇場型で、じわじわと経営陣を追い込み、自らの主張を実現していく。そして狙い通りに株価が上がった時点で、株式を売却して収益を得る。これがダニエル・ローブのやり方です。
自らの投資を明らかにし、企業が株主を向いた経営を重視するようになるとの期待が市場で高まります。また劇場型にすることで、経営陣に効果的に圧力を加えることもできます。
ダニエル・ローブのような知名度の高い投資家が触手を伸ばしたとなれば、個人投資家などが追従して買いに動き、株価が一段高になりやすく、ダニエル・ローブはあえて対外的に公表することで得られる追い風を計算にいて投資をしています。
ヤフーのCEOを追い出した実績
ヤフーはグーグルなどの強力なライバルの台頭で輝きを失っていました。
創業者で元CEOのジェリー・ヤンは、マイクロソフトによる巨額の買収提案を拒否し続け、そのたびに市場を落胆させてきました。
ダニエル・ローブは2011年9月、ヤフー株を5%超持っていると公表し、マイクロソフトの魅力的な買収案を拒否し、業績の低迷から抜け出せない経営陣の戦略のなさを批判しました。
この時はまだ、市場は半信半疑でした。なぜかというと、ダニエル・ローブよりも実績が高い、百戦錬磨の物言う投資家であるカール・アイカーンでさえ、ヤフーの経営を立て直すことができなかったからです。
ダニエル・ローブは収益を抜本的に立て直す為には、経営陣の入れ替えが不可欠だと主張しました。
ヤフーに不満を募らせる他の株主も味方につけ、経営陣をじわじわと追い詰めていきます。
そして、大規模なリストラなどを行うヤフーCEOのトンプソンを危うく感じたダニエル・ローブは、その流れを止めるために、様々な手を使って、解任へと追い込んでいきます。
ずさんなガバナンス体制に風当たりが強まり、ヤフーは遂に、トンプソンCEOを事実上の解任を発表しました。
グーグルの副社長をヤフーに招き入れ経営を立て直した
トンプソンを解任した後、ダニエル・ローブ率いるサード・ポイントが推薦した3人を取締役に迎え、さらに、ライバルであるグーグルの副社長で、ネット検索の成長の立役者、ヤフーに辛酸をなめさせた張本人であるマリッサ・メイヤーを新たなヤフーのCEOに就任させたのです。
その起用は当たり、メイヤーは会社を立て直し、ヤフー株は反発のきっかけをつかんだのです。
収益の柱であるインターネット広告の売上高が本格的に回復したわけではないが、市場は「変われないヤフー」の汚名返上を素直に評価したのです。
「ダニエル・ローブは、ヤフーには計り知れない潜在力があると見抜いていた。(経営改革などで)われわれの偉大な基礎を築いてくれた」
ヤフーはダニエル・ローブに謝辞を送ったのです。
ダニエル・ローブは日本の救世主となるか?
日本の第3の矢の正しい標的。ダニエル・ローブは2013年6月に、ウォールストリート・ジャーナル紙に共同で執筆した論文を発表しました。共著の相手は、ブッシュ前大統領の元補佐官で日本経済にも詳しいエコノミストでもあるローレンス・リンゼーです。
ダニエル・ローブらはここで、安倍政権が掲げる経済改革が成功するには、金融緩和と機動的な財政政策に続く、第3の矢である成長戦略の成功が不可欠だと主張しました。
批判されたのは低いROAと資本効率の悪さ
ダニエル・ローブは日本に対しても批判しました。それは、日本企業の非効率な経営です。
総資産に対する純利益の比率を示す総資産利益率(ROA)を日米で比べると、11年の日本はわずか1.7%でした。米国では3.8%と倍以上の開きがあったのです。
また、11年の日本の民間資本は2137兆円なのに対し、民間資本が作りだした国内総生産(GDP)は370兆円にとどまっています。
民間部門の資本対生産高の比率は5.8対1。米国では2.9対1となっており、日本の民間部門の資本効率は著しく低いと指摘しました。
日本企業が低収益に甘んじてきたのは経営の安定を重視しすぎたから
ダニエル・ローブは、メインバンクとの関係や社内出身者で構成される取締役など、未熟なコーポレート・ガバナンスが問題だと指摘しました。
融資を中心とした間接金融が主体の日本では、成長よりも経営の安定が重視されがちです。
社内出身者だらけの取締役会では異なる意見がぶつかり合うこともなく、イエスマンばかりで経営の変化は生まれにくい。
第3の矢の正しい標的は何なのか?
ダニエル・ローブらは解雇がしやすい雇用情勢の流動化や法人税の引き下げとともに、取締役がその報酬の多くを自社の株式で受け取ることが必要だと結論づけました。
経営者の報酬を株価と連動させれば、経営者に収益を向上させて株価を引き上げるインセンティブが働くからです。
米国型資本主義は危険だが日本には必要な要素
2008年の米国発の金融危機は、行き過ぎた米国型資本主義により、企業経営者が株価を上げることに専念し、経営が短期志向になったことで起きたとも言えます。
株価連動の経営には危険が伴うのです。
ただ、日本型経営が万能でないことは事実で、米国は株主ばかりを重視し、日本は従業員を大切にすると言うが、失われた20年の中で、日本企業が従業員に賃金で報いてきたとは言えません。
不採算部門をずっと温存した結果、いつしか企業全体の競争力が低下し、さらに大規模な人員削減につながった例もあるのです。
日本は深刻な少子高齢化に直面し、国家財政も危機の瀬戸際にあります。
日本経済の歯車を再び回すためには、どうしても海外からのマネーが必要なのです。
企業のバランスシートを見直すことで経済が活気づく
日本の企業はバランスシートに眠ったままの余剰マネーを株主や従業員、あるいは成長投資につなげることで、マネーが循環し、経済が再び活気づきます。
経営の健全化に向けた業界再編では、もっと海外ファンドなどのマネーを活用する発想があってもいいのです。
まとめ
- レバレッジをかけて収益を上げているわけではない
- 経営陣に圧力をかける強面(こわもて)の物言う株主
- ヤフーのCEOを追い出した実績
- グーグルの副社長をヤフーに招き入れ経営を立て直した
- ダニエル・ローブが考える日本再建の条件
低いROAと資本効率の悪さを直す
米国型資本主義は危険だが日本には必要な要素
企業のバランスシートを見直すことで経済が活気づく