偉大なる投資家から学ぶ投資の心得『レイ・ダリオ』前編
世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者。
運用資産は約1500億ドル。
米金融危機や欧州の債務問題を予見し、2011年は39億ドルの巨額の報酬を得た。
世界の株式・債券・為替などあらゆる資産に投資するグローバル・マクロ戦略を採用する。
FRBなど世界の中央銀行がもっとも注目する投資家でもある。
レイ・ダリオ最大の武器は世界を襲う危機を予知する能力
リーマンブラザーズの経営破綻が危機の連鎖を招いた2008年、ヘッジファンド全体の投資収益はマイナス20%と過去最悪に落ち込みました。
一方レイ・ダリオは、危機を見越した投資戦略が当たり、ファンドの運用利回りは約12%のプラスを確保しました。
その後の欧州の債務危機も予見し、圧倒的な成績を収めました。
歴史から学ぶことに忠実であろうとしたから危機を予知できる
ある取材で記者が質問します「なぜ数々の危機を予知できたのですか。」
レイ・ダリオはこう答えます「私は歴史から学ぶことにずっと忠実であろうとしてきた。」
1920年代のワイマール共和国のハイパーインフレーション、20年代末〜30年代にかけての世界大恐慌、60代〜70年代の英国景気の停滞など、歴史を遡って過去の危機を徹底的に研究したのです。
もちろんその中には、90年代前半の日本のバブル崩壊も含まれています。
それらの共通する特徴を探り、今の世界に当てはめる手法が、危機を予知できる読みの鋭さに繋がっているのです。
2008年のサブプライム問題、リーマンショックを予知した事例
2007年半ば、レイ・ダリオは日々の顧客レポートで警鐘を鳴らします。
当時の米国では、まだ多くの人が住宅価格は上がり続けると信じ、金融機関は十分な収入のない個人にまで住宅ローンを組ませ、そのいくつもの貸出債権をリスクに応じて切り分けた上で、証券化商品に仕立て上げ、顧客である機関投資家に売りさばいていました。
その現状を見て、レイ・ダリオは金融機関や個人が借金をめいいっぱい膨らませた住宅市場のバブルが、いつか限界に達すると見抜いていました。
2007年末には、米財務省を訪れ、サブプライム問題が金融危機に繋がると直接警告を促したのですが、当局者はそこまで深刻には受け止めませんでした。
そこから崩壊の時まで長くはなく、2008年3月、極端な借入れに依存していた経営が仇となり、資金繰りに行き詰まった証券大手のベア・スターンズをJPモルガン・チェースが救済買収し、同年9月には、リーマンブラザーズが経営破綻しました。
やがて米国最大の金融危機に陥り、2008年12月にFRBによる金融緩和の道に繋がりました。
危機を予知していたレイ・ダリオが早い段階から買入れた資産
金融危機により、マネーが国債に流れ込むと予想し、レイ・ダリオは早い段階から米国債を買入れました。
また、ドルなど通貨の信認が失われることも見越し、通貨の代わりの役割を果たす金(ゴールド)の買入れも行いました。
その危機に備えた運用がことごとく実を結び、レイ・ダリオの名は、ウォール街だけでなく、世界の中央銀行に知られるようになったのです。
経済は機械のように動くと考える思考
How The Economic Machine Works by Ray Dalio
こちらの動画は、レイ・ダリオが2013年9月に「経済は機械のように動く」と題した30分のビデオです。
アニメーションを駆使しながら、レイ・ダリオ自身が声を吹き込み、わかりやすく経済の構造を解説しているので、是非ご覧ください。
経済とはシンプルで基本的な活動であること
着目する点は、難しい数式などなく、買い手と売り手の取引というもっとも基本的な経済活動であることです。
食品でも自動車でも、不動産でも、買い手は商品やサービスを売り手から購入する、この時、買い手は現金(自己資金)で支払うこと以外に、もう一つの方法があります。
それは、銀行からお金を借りたり、クレジットカードを使ったりして払う方法です。
この信用(クレジット)に裏打ちされた借金による支出が、レイ・ダリオ流の経済学の重要な土台です。
信用(クレジット)による借金が経済を拡大させる
例えば、Aさんの収入が年間500万円で、借金は0とします。
社会的に十分な信用があり、銀行から年収の1割にあたる50万円を借りたとし、もしAさんがこの全額を、Bさんとの何かの売買で使ったとします。
そうすると、Bさんが得られる収入は550万円になります。
今度はBさんが550万円の1割の55万円を借入れたとし、新たに登場したCさんとの取引で、Bさんは総額605万円を支払います。
次はCさんです。605万円を元手にその1割の60.5万円を借りてDさんと取引をする。
このように取引が増えるにしたがって信用も膨張し、やり取りされるお金も増えていくのです。
初めのAさんの段階では、500万円で始まったのが、Dさんにまで行った時には金額が665.5万円まで膨らんでいます。
これが信用創造と呼ばれるものです。
詳しく知りたい方は、お金と銀行の仕組みもご覧下さい。
お金を借りて消費することの繰り返しによって、人々が借りるお金は増え、消費できる金額も増えていく。これが経済拡大のサイクルを生みます。
信用創造によるバブルが金融危機を招く
信用創造を使うと、経済はどんどん拡大します。しかし、当然のことなのですが、際限なく借金をすることはできません。
どこかで信用創造は限界に達し、もうこれ以上は借りられないという局面が訪れます。
信用創造がバブル的に膨らみ限界に達してしまったら、今度は借りることとは反対に、借りたものを返すことを最優先にしなければいけなくなります。
2008年の金融危機は、返済する能力のない人にまで住宅ローンを貸し付けた信用バブルが崩壊した結果として起きたのです。
崩壊の震源地である米国がその後に直面したのは、大量の借金を返済する債務圧縮(デレバレッジ)です。ここまでくると経済は一転して縮小をしていきます。
債務圧縮(デレバレッジ)とは
収入に対してこれ以上借金ができなくなった状態を指し、消費者は支出を抑え、銀行は貸し出しを渋り、不動産などの資産価格は下落します。
信用はどんどんしぼみ、おのずと社会不安が高まってきます。
短期と長期の債務サイクルの流れで不況が訪れる
レイ・ダリオによると、一般に不況と呼ばれるものは、短期の債務サイクルに基づいていると言います。
これは通常、期間が5〜8年程度で、不況から脱するために中央銀行が大胆な利下げをすることで最終的に不況から抜け出せることが多いのです。
景気は一時的に落ち込みますが、経済全体が壊滅的な打撃を受けるわけではありません。
もっと懸念すべきなのが、長期の債務サイクルなのです。こちらの周期は75〜100年と非常に長く、1920〜30年代の大恐慌や、2008年の金融危機がこれにあたります。
この場合は、中央銀行が利下げしたぐらいでは解決せず、過剰な債務に端を発した債務圧縮(デレバレッジ)が支配する局面では、仮に金利をゼロにしても、借入が増えて経済が持ち直すというシナリオが想定しにくいのです。
レイ・ダリオが考える100年に一度の金融危機を乗り越えるための4つの方法
- 支出の抑制
- 借金の削減
- 富の再分配
- 紙幣の増刷
支出の抑制
家計のバランスシートと同じように、節約に努めれば、時が経つにつれて改善するという考えです。
スペインやイタリアなどの南欧の債務危機では、各国が財政緊縮策を行いました。
ただ、あまりにも財布の紐を締めすぎると、需要と供給のギャップが広がり、経済全体がデフレに陥るリスクが高まります。
借金の削減
債務の再編という形で起こります。
債務圧縮(デレバレッジ)の局面に入って、個人は初めて自分が実力以上にお金を借りすぎていたこと(住宅ローンなど)に気づきますが、時すでに遅しです。
この時にはもう収入の伸びは見込めず、積もり積もった借金を返していくには、銀行の借入の一部を棒引きしてもらったり、返済の期間を長くしてもらったりすることが必要になります。
貸手にとっての負担が大きく、こちらもデフレにつながりやすいのです。
富の再分配
経済が縮小すれば政府の税収は減ります。政府が生活に困った中低所得者への支援を十分にできなくなると、社会不安を招きかねません。
そこでターゲットになるのが富裕層です。
潤沢な資産を持つ富裕層から税金を取り、それを貧しい人々に回すことで社会のバランスを取るやりかたです。
紙幣の増刷
政府の財政が悪化し、個人の家計も縮小するばかりになってしまい、窮地に陥った場面で、唯一自由に動けるのが中央銀行です。
金利をゼロまで引き下げるとともに、紙幣の増刷による量的緩和を実施します。
国債などの金融資産を中央銀行が買い取り、中長期金利の低下を促し、より高い利回りを求めてマネーが株式などのリスク資産に流れやすくします。
株高などの資産効果で、お金が消費に回る余力も生まれます。
ただ、紙幣の増刷はインフレのリスクが非常に高くなります。
1920年代のドイツは、第一次世界大戦後の賠償金の支払いのために大量の紙幣を増刷し、通貨の信認を低下させてしまい、ハイパーインフレになりました。
日本のバブル崩壊時は悪い方法を取ってしまった
レイ・ダリオは、この4つの方法をバランスよく組み合わせ、社会全体が抱える債務を持続的に減らしていくことが大事だと考えています。
名目の経済成長率(物価上昇率+実質成長率)が、名目金利を上回る状態を長く作り出せれば、経済はいずれ暗いトンネルから抜け出せると。
しかし、もし中央銀行が積極的な金融緩和を渋ったりすれば、ひどい債務圧縮(デレバレッジ)が起こります。
深刻なデフレから抜け出せなくなり、景気の低迷がさらに長期化してしまう。
1990年代前半の不動産バブル崩壊から、20年にわたる低成長の時代を経験してきた日本が、何よりその事実を物語ると言います。
まとめ
- レイ・ダリオ最大の武器は世界を襲う危機を予知する能力
- 歴史から学ぶことに忠実であろうとしたから危機を予知できる
- 危機を予知していたレイ・ダリオが早い段階から買入れた資産は国債と金(ゴールド)
- 経済は機械のように動くと考える思考
- 信用創造によるバブルが金融危機を招く
- 短期と長期の債務サイクルの流れで不況が訪れる
- レイ・ダリオが考える100年に一度の金融危機を乗り越えるための4つの方法
支出の抑制
借金の削減
富の再分配
紙幣の増刷