これからの世界経済を考える『米国のサブプライム危機と量的緩和』
世界的な量的緩和が今後の世界経済にどう影響するのか?
その出口はどうなるのか?
米国の利上げはどう影響するのか?
近年の異常とも言える市場の動き。
これからの世界経済はどのように動くのでしょうか?
まずは、米国の量的緩和がなぜ始まったのかを考えてみます。
量的緩和のきっかけは米国で起こった住宅バブルの崩壊『サブプライム危機』
2006年頃の米国では、こんな会話が繰り広げられていました。
「今ならどんな人でも住宅ローンを組んで、夢のマイホームが持てるぞ。」
「え?時給10ドルで働いているお前が住宅ローンを払えるのか?」
「大丈夫、俺が買った家は70万ドルだったが、月の支払いは300ドルだけでいい。住宅価格は毎年10万ドルずつ上がるから、いざとなれば家を売ってしまえばいい。簡単な話さ。」
「月々300ドルの支払いだったら払えそうだな。じゃあ、俺も結婚して子供ができたし、マイホームでも買うか。」
こんな信じられない会話が成立していたのが、当時の米国なのです。
住宅バブルを起こした原因は、ネガティブ・アチゼーションと呼ばれる返済方法が可能にした低所得者への住宅ローン
仮に70万ドルの住宅ローンを組むと、本来なら毎月4000ドル程度に達するはずなのですが、当時の米国では、ネガティブ・アチゼーションと呼ばれる、住宅価格や将来の給与の値上がりを前提としたローンの返済方法を採用することができ、月々の支払いを金利よりも低く抑えることができたのです。
このようなことが許されると、所得の少ない人(返済能力がない人)でも、次から次へと住宅ローンを組み、住宅を買う人が増えれば値段は上がります。
値段が上がると分かれば、さらに住宅を買う人が増えます。
この繰り返しで、米国では住宅バブルが起きました。
このようなバブルが長く続くわけはなく、バブル崩壊後、米国では多くの銀行が低所得者層向け不動産融資の膨大な貸し倒れをつくり、その不良債権の額は、銀行の力だけでは自立回復できないレベルに達しました。
これがサブプライム危機です。
2008年10月に発動された米国の量的緩和
2008年10月、サブプライム危機を打開するために、米国は『不良債権救済プログラム』と呼ばれる異例の救済政策を発動しました。
不良債権救済プログラム(TARP)とは
通常、銀行は自宅を担保にお金を貸します。
そのため、ローンの返済が滞り、自宅を没収して競売で売却してもローン残債以下でしか売れない場合は、銀行は貸したお金が返ってこないことになります。
このような場合は、この住宅ローンの借用書を、サービサーと言われる取り立て代行会社にタダ同然の価格で売却して損出しします。
しかし、膨大な金額に膨れ上がった不良債権に対してこの処理をしてしまうと、多くの銀行は大損してしまい存続できない可能性が非常に高いと予想されました。
さらに、いくつかの大手銀行が潰れてしまうと、それらをメインバンクとして企業や関連の深い中小銀行も連鎖で潰れてしまい、金融市場全体が動かなくなってしまいます。
このような事態を回避するために米国は、安値で政府系金融機関に完済保証をつけさせ、安全なローン債権に無理やり変身させ、これをFRBが高値で買い取るという異例の処置をとったのです。
簡単な話、政府は、銀行が保有する紙切れ同然の不良債権を無理やりお札を刷って買い取ったわけです。
さらに米国は金利を5.25%から段階的に0.25%まで下げました
このほかに米国は、FRBによる資産買い入れと同時にフェデラル・ファンド・レートという翌日物金利を5.25%から段階的に0.25%まで下げました。
景気が悪い時期に金利を下げるのは世界共通の定石とも言える金融政策です。
これには、すでに変動金利で住宅ローンを組んだ人のローン支払いを減らすためと、銀行借入をする住宅購入者や企業がお金を借りやすくして経済を活性化させるためなのです。
米国の量的緩和と利下げで米国株式市場は史上最高値を更新
米国の量的緩和と利下げで、米国株式市場は、2013年5月にサブプライム危機前の史上最高値を更新することになりました。
現在も株価は昇り調子で、次々と史上最高値を更新し続けています。
米国株が最高値を更新した背景には、米ドルが増刷され、相対的に米ドルの価値が下がるためインフレ圧力が働き、インフレ対策として米国株や不動産が選好されたことも考えられます。
さらに、米国の政策金利は0.1%という歴史的な低水準であることにくわえ、サブプライム危機による景気後退が落ち着き、住宅価格や雇用が安定した頃に金利を上げることが予想されていたため、資金は債券市場には流れにくく(国債は下落と考え)、株式市場にどんどん流れたのも大きな要因です。
米国経済は量的緩和と利下げで救われた
米国は金融政策を駆使してサブプライム危機を無事乗り越えたと言えるでしょう。
100年に一度と言われたサブプライム危機による大パニックから、わずか5年での株式市場の回復は、多くの人が想像する以上に早く、あの頃は誰もが悲観的であったため、2008年10月頃から米国株投資を始めた人は大きなリターンを得ることができたと思います。
まとめ
- 量的緩和のきっかけは米国で起こった住宅バブルの崩壊『サブプライム危機』
- 住宅バブルを起こした原因は、ネガティブ・アチゼーションと呼ばれる返済方法が可能にした低所得者への住宅ローン
- 不良債権救済プログラム(TARP)=量的緩和
- 米国の量的緩和と利下げで米国株式市場は史上最高値を更新
- 米国経済は量的緩和と利下げで救われた