カイル・バスから学ぶ投資の心得『日本国債暴落に賭ける投資家』

米証券ベア・スターンズや米運用大手レッグ・メイソンなどで、経営不振企業に投資するディストレスト戦略に携わる。
2005年末にテキサス州ダラスに本拠を置くヘイマン・キャピタル・マネジメント設立。
米住宅バブルの崩壊、欧州債務危機の到来を的中させ、ヘッジファンド業界で一躍有名になりました。
バブル崩壊から日本破綻を予想する投資家たちがいる
カイル・バスは語りました。
「アベノミクスにより財政再建がうまくいくかは極めて疑問で、日本の国債が危ない点は今後も変わらない」
借金大国として知られる日本。GDPに占める公的債務の比率は200%を優に超え、先進国で最悪です。
不動産バブルが崩壊した1990年代から、多くの海外投資家が、日本の将来は危ういとみて円売りや日本国債売りを仕掛けてきました。
日本売りを予想していた投資家たちの損失は膨らんだ
たしかにバブルの崩壊後、日本経済の低迷から日本株は長期にわたって下げ相場が続いてきました。その一方で、長期金利は歴史的な水準まで低下(国債価格の上昇)してきました。
海外勢の思惑に反して、金利が下がってきた理由は、安全志向の家計は消費を控えて、ひたすら貯蓄にお金を回してきたためです。
預金が積み上がる金融機関は、景気の低迷もあり、企業への融資には積極的にはなれず、結局、停留したマネーを安全資産とされる国債市場に振り向けてきました。
日本の危機的な財政状況にもかかわらず、金利が低下してきたのはそのためなのです。
外国為替市場での大幅な円高・ドル安も進み、円安や日本国債売りを仕掛けてきた投資家は手痛い失敗を繰り返すことになりました。
損失が膨らんでいても日本売りを仕掛けるカイル・バス
「安倍首相はパンドラの箱を空けてしまった」
日本復活にかけたアベノミクスを、カイル・バスはそう捉えているのです。
外国為替市場で円安が進み、日本経済の成長期待が高まるほど国内の資金はリスク資産である株式などに向かい、安全資産とされる日本国債から逃げ出し、皮肉にもアベノミクスによって、いずれ日本が直面せざるを得ないシナリオが、想定より早く現実のものとなる。これがカイル・バスの予想する見立てなのです。
金融緩和が金利コントロール能力を失う
カイル・バスが問題視しているのが、日銀による異次元の金融緩和です。
日銀は、市場に供給するお金の量を増やし、2%の物価上昇を達成するという目標を掲げています。
「政府の財政赤字をマネタイゼーション(中央銀行による穴埋め)することにほかならない」
カイル・バスは日銀の大胆な政策をこう断じました。
「黒田総裁は街にやってきた新しい保安官の風情だが、いずれ日銀が金利のコントロール能力を失うのはハッキリしている」
国の膨らみ続ける借金を日銀が肩代わりしているとの見方が広がれば、長期金利はいずれ跳ね上がります。日銀には、外国為替相場をさらなる円安方向に誘導し、輸出産業の競争力は回復させる思惑もありますが、日本企業の海外移転が進んだ現在では、円安による日本経済の押し上げ効果は限られていると考えているのです。
日本売りの根拠は少子高齢化による国債の買い手不足の可能性
「日本では子供よりも老人向けのオムツの数が多い。国家財政を支える現役世代が決定的に不足している。」
日本では65歳以上の人口が全体の約25%に達し、成熟経済のはずの先進国でも全体では約8%にとどまり、いかに日本の高齢化が突出しているかが分かります。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国債市場から株式市場へのシフト
人口構造変化が、国債の買い手の減少という事態をもたらし始めているのは事実です。
公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、年金給付がうなぎ登りに増え、近年は国債など保有資産の売り手に転じました。高齢化が進み、家計部門の貯蓄率もマイナスに転じつつあります。
これまで行き場のない個人のお金が銀行預金として停留し、それが日本国債に流れていましたが、少子高齢化が急ピッチで進むなか、これまでの構図は変わろうとしています。
2014年に入ると、GPIFは債券に偏った運用を見直し、株式などのリスク資産に資金を振り向ける方針を掲げました。
そうなると、国内の資金がより成長の期待できる分野に流れるほど、国債市場は有力な買い手を失っていき、公的年金の債券離れ進めば、金利に与える影響も無視できなくなります。
現在は、日銀による金融緩和で国債価格の下落は抑えられていますが、金融緩和は永遠に続けれることはなく、いつか限界が来てしまうと、国債の暴落は避けられないと考えられます。
カイル・バスが予想する1ドル=200円になる日本の未来
カイル・バスは今後、日本の金融市場で何が起きると予想しているのか?
「もし自分の見方が正しいとすれば、円安はまだ始まったばかりだ」
一気に1ドル70円台から100円を超えるまで進んだ為替相場の円安・ドル高。日銀が金融緩和のアクセルを吹かせば吹かすほど、円相場には下押し圧力がかかります。
15年中頃には1ドル=125円まで進んでおり、将来的には1ドル=200円程度まで円安が進むと予想しています。
長期的に見ると日本に悲観的な投資家は少なくない
債券分野での卓越した運用実績を生み出す、米ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラックCEOは、日銀の金融緩和直後に「日経平均株価が1万5000円以上になってもおかしくない」と宣言しました。
その予言は見事に的中しましたが、日本の将来となると違った見方を取っています。
「巨額債務は持続が不可能で、少子高齢化で成長の余地も限られる。あくまで未曾有の金融緩和を狙った短期的な円売り・日本株買いであり、長期に日本市場にかかわるつもりはない。」
カイル・バスほど過激ではありませんが、アベノミクス効果は短命に終わるとして、日本への懸念を口にする海外投資家は少なくありません。
リスクを回避するために日本の投資家はできるだけ円資産を持たないようにする
「国債市場が崩壊すれば金利が急上昇し、預金をしていた一般の人々がもっとも大きな損失を被る。私ができるアドバイスは、円資産をできるだけもたないようにすることだ」
カイル・バスはこうアドバイスをしました。
ではどこに投資をするのがいいのか?
「自律的な経済成長が可能で、金融の膨張や信用創造に頼ってこなかった国に限る。生産性の高さや若い労働者がいる人口構造も大事だ」
「カナダ、ノルウェー、オーストラリア、インドネシア、インドが魅力的な投資対象だ」
カイル・バスはこのように予想しました。
まとめ
- バブル崩壊から日本破綻を予想する投資家たちがいる
- 日本売りを予想していた投資家たちの損失は膨らんだ
- 損失が膨らんでいても日本売りを仕掛けるカイル・バス
- 金融緩和が金利コントロール能力を失う
- 日本売りの根拠は少子高齢化による国債の買い手不足の可能性
- カイル・バスが予想する1ドル=200円になる日本の未来
- 長期的に見ると日本に悲観的な投資家は少なくない
- リスクを回避するために日本の投資家はできるだけ円資産を持たないようにする
カナダ、ノルウェー、オーストラリア、インドネシア、インドが魅力的な投資対象
カイル・バスが放つ言葉は過激で、特に日本では拒否反応を示す投資家が多い(筆者も日本売りには否定的)です。
しかし、米国ではシカゴ大学が偉大な投資家と呼んで公演に招いたり、ワシントンに出向いて国会議員に世界の財政を説明したりする機会もあります。
日本でも異端を異端と片付けるのではなく、カイル・バスの警鐘を受け止めて、財政規律と経済成長の両立をどう実現していくかの視点も考えなくてはいけないのかもしれません。