ウォーレン・バフェットから学ぶ投資の心得『市場に関する原則から考える銘柄選択』
これらの原則を考えると、企業の株式を買うか買わないかというところまで分かると思います。
しかし、その企業に十分な価値があるか、買うタイミングは今なのか、この2つを考えなくてはいけません。
そこで今回は、銘柄選択(株式投資)をする際、ウォーレン・バフェットが考える、市場に関する原則から、その企業の価値を見出す方法をご紹介します。
株価と企業の価値は一致しない
株価は市場で決まります。価値は、アナリストが企業の事業、経営、財務について知り得たすべての情報を評価して決まります。
ところが、株価と価値は必ずしも一致しません。
株式市場が常に効率的であれば、情報によって価格は瞬時に調整されますが、そうならないことを投資の経験がある方なら分かるはずです。
株価は様々な理由で、価値より高かったり低かったりします。その理由も全てが理論的とは限りません。
企業の本質的価値を将来のキャッシュフローと長期国債の利率で算出する
アナリスト達は、長い間、企業の本質的価値を算出するために、数多くの計算式を試みてきました。
また、一般的に使われる指標は、PER・PBRや配当利回りなどです。
しかし、ウォーレン・バフェットがベストと考えるのは、70年以上前に書かれた著書「投資価値理論」に出てきます。
企業の価値は、企業のライフサイクルで予想されるネット・キャッシュフローを適切な利率で割引いて算出されると言います。
「こうして得られた価値の金額は、馬車のムチの製造会社から携帯電話の通信業まで、あらゆる事業の価値の共通の物差しになる」とも言っています。
将来のキャッシュフローは債券の利息のように確実であるべき
上記の計算方法は債券の評価とよく似ています。
債券の場合、利率と満期日で将来のキャッシュフローが決まり、全ての利息を合わせて、適切な割引率で割引けば、債券の価格が得られます。
企業の場合、アナリストはその企業が将来生み出す「利息」に相当するオーナー利益を予想し、それを現在価値に割戻すのです。
ウォーレン・バフェットは、将来のキャッシュフローは債券の利息と同じように確実であるべきだと考えています。
収益性が安定していれば、高い確率で将来のキャッシュフローを決定できます。それができない場合には、その企業をあえて評価しようとはしません。
この明確さがウォーレン・バフェットの手法の特徴です。
将来のキャッシュフローを長期国債の利率で割引く
将来のキャッシュフローを予測したら、次は割引率です。
ウォーレン・バフェットはシンプルに、米国政府の発行する長期国債の利率を使用します。これこそ、誰もがリスクゼロと考える利率なのです。
学者の中には、割引率としては、企業の将来のキャッシュフローは絶対確実ではないからという理由から、リスクゼロの利率に株式のリスクプレミアムを乗せた利率を使うべきだという主張もあります。
しかし、ウォーレン・バフェットはこの主張を受け入れません。株式のリスクプレミアムはCAPMから生まれたもので、価格のボラティリティ(予想変動率)をリスクとして捉えているからです。
価格のボラティリティ(予想変動率)を許容しないのはリスクを許容していない
価格のボラティリティ(予想変動率)でリスクを判定すること自体がバカげているというのがウォーレン・バフェットの考え方です。
予測可能な利益を安定して生み出している企業に投資を集中させれば、投資のリスクを完全に無くせないにしても、小さくすることはできます。
「私は確実さを重視する。そう考えれば、彼らの言うリスクファクター自体がまったく無意味なものになる。リスクは自分がやっていることを理解していないことから生まれるものだ」と反論します。
もちろん、企業の将来のキャッシュフローを元利払いが確定した債券と同じように予測することはできません。
しかし、ウォーレン・バフェットは、ある企業の株価が市場全体よりも大きく変化するというだけの理由で、リスクゼロの利率に何%か上乗せする手法を取る気になれません。
もし、株式のリスクを無視してしまうことに気が進まないのなら、株式を購入する価格について、大きめの安全なマージンを見込めばいいのです。
※安全なマージンを知りたい方はウォーレン・バフェットを育てた投資家から学ぶ投資の心得『ベンジャミン・グレアム(バリュー投資の神様)』に詳しく記載していますので、ご覧下さい。
また、現在(2015年)のように、長期国債の金利が異常に低いときがありますが、このような時期には、ウォーレン・バフェットは慎重になり、正常な状態に戻った金利水準を勘案して、リスクゼロの金利に若干上乗せをする手法を取ります。
ウォーレン・バフェットはバリュー投資家でもグロース投資家でもない
ウォーレン・バフェットの主張に対して、将来のキャッシュフローを予測することはやはり難しく、割引率を使うことで、評価に大きな誤りが発生するという反論があります。
その人たちは、価値を計算する様々な簡便法を使います。
バリュー投資家
バリュー投資家と呼ばれる人々は、PERやPBRが低いこと、配当利回りが高いことを挙げます。
過去の実績データを使ってテストを繰り返し、これらの比率を使って銘柄を特定して買えば、利益を上げられると言います。
グロース投資家
また、グロース投資家と呼ばれる人々もいます。利益が平均以上に成長している企業を選ぶ投資家です。
典型的なグロース企業はPERが高く、配当利回りが低いのが特徴で、バリュー投資家が目をつける企業と正反対なのです。
ウォーレン・バフェットもかつてはバリュー・グロース投資家だった
投資家は、バリューとグロースのどちらかの戦略を選ばなくてはならない場面にしばしば直面します。
ウォーレン・バフェットも若い頃、この主導権争いに参加していたことを認めていますが、今のウォーレン・バフェットは、この論争が無意味なことだと考えています。
2つの投資戦略は根っこでつながっていると言います。
価値は、投資の将来のキャッシュフローの現在価値であり、グロースは、価値を決定するための計算に過ぎないというわけです。
割安な株はキャッシュフローを現在価値に割引いた価値から考える
価値を測るための簡便法に対して、ウォーレン・バフェットはこう統括します。
「投資家が価値のあるものを買い、その結果、投資に対して本当に価値を得ることができているかどうかは、キャッシュフローを現在価値に割引いた価値から考えて、最も割安なものを買っているかで判定すべきだ。企業が成長しているか、ボラティリティが高いか、あるいは利率変動が大きかどうか、PERやPBRがどうかなどは、全く関係がない。」
将来を見据えた魅力的な価格で株を買う
わかりやすい事業を行い、利益が安定していてる企業を選ぶだけでは、投資が成功するとは限らないとウォーレン・バフェットは指摘します。
有利な価格で買い、企業が期待通りの業績を上げることが必要になります。
過ちを犯すとすれば、価格が高すぎたか、事業の将来性を読めなかったかです。最も間違いやすいのは、将来性をだとウォーレン・バフェットは言っています。
安全なマージンを見極めるのが重要
ウォーレン・バフェットが目指しているのは、平均以上のリターンを上げる企業を見つけるだけでなく、その企業を価値よりも安い価格で買うことです。
価格と価値の間に安全なマージンと言えるだけの十分な差がある時に買うことが重要だということは、ベンジャミン・グレアムの教えです。
ウォーレン・バフェットを育てた投資家から学ぶ投資の心得『ベンジャミン・グレアム(バリュー投資の神様)』
安全なマージンは、ウォーレン・バフェットにとって深い意味を持ちます。
まず、価格の下落に対する備えになります。価値が価格よりも少しだけ高いなら、ウォーレン・バフェットはその株式を買いません。
企業の価値が少しでも下がれば、遠からず株価も下がり、購入価格を下回る可能性があるからです。
価値と価格のマージンが十分に大きければ、本質的価値が下がってもリスクは小さいのです。
安全なマージンは非常に高い投資リターンを生むことがある
平均以上のリターンを生む企業を見つければ、それに従って、株価も長期的に安定して上がっていきます。
自己資本利益率(ROE)が高い企業の株価は、利益率の低い企業よりも高くなっていき、さらに、価値に対して大幅な割引き価格で購入できたら、市場価格が価値に従って上がることで、大きな投資リターンを得ることができます。
ウォーレン・バフェットはこう語ります。
「株式市場は神と同じで、自ら助く。しかし、神と違って、自分が何をしているのか分かっていないものを許してはくれない」
まとめ
- 株価と企業の価値は一致しない
- 企業の本質的価値を将来のキャッシュフローと長期国債の利率で算出する
- 将来のキャッシュフローは債券の利息のように確実であるべき
- 将来のキャッシュフローを長期国債の利率で割引く
- 価格のボラティリティ(予想変動率)を許容しないのはリスクを許容していない
- ウォーレン・バフェットはバリュー投資家でもグロース投資家でもない
- 割安な株はキャッシュフローを現在価値に割引いた価値から考える
- 将来を見据えた魅力的な価格で株を買う
- 安全なマージンを見極めるのが重要
- 安全なマージンは非常に高い投資リターンを生むことがある