ジム・チェイノスから学ぶ投資の心得『空売りから見えてくる投資の罠』

ジム・チェイノスから学ぶ投資の心得『空売りから見えてくる投資の罠』

1985年に空売り専門のキニコス・アソシエイツを米国で創業。

運用資産は約60億ドル。

空売りファンドとして世界最大級を誇り、2001年に経営破綻した米エネルギー大手エイロンの不正会計を見抜いたことで有名。

金融犯罪や投機事件の歴史に精通している。

前回のジム・チェイノスから学ぶ投資の心得『中国暴落に賭ける空売り』に続き、今回は「空売りから見えてくる投資の罠」について考えてみたいと思います。

割安株に仕掛けられた罠

PERやPBRなどの投資指標を見て、極端に割安になった企業があったとします。

実際の企業価値に比べ、株価が大きく下げた銘柄に投資するベンジャミン・グレアムなどのバリュー投資家なら、割安なうちに投資を始めようとするかもしれません。

しかし、割安に放置された銘柄が全て上がるわけではないという事実があります。

割安に見えるのは見かけだけで、実は株価の上昇が見込めないほどに本質的な企業価値が下がっていることを、市場が気づいていないこともあるのです。

この現象をジム・チェイノスは「バリュートラップ(割安の罠)」と呼んでいます。

 

ヒューレッド・パッカード(HP)の株価は割安なのに暴落した

ジム・チェイノスは2012年7月、「HPは度重なる買収で企業価値が破壊されている」と言い放ちました。

HPはパソコン事業の苦境を覆い隠すように巨額の買収を繰り返しているが、実質的なキャッシュフローはほとんど増えていない。

パソコンから携帯型端末への移行についていけず、本業不振で借金は積み上がるばかり。

指標面から株価が割安に見えても、決して株価は上がらない「バリュートラップ」の状態にあるという主張でした。

その4ヶ月後の11月、事件が起こります。

前年に約110億ドルを投じて買収した業務用ソフト大手の英オートノミーの不正会計が表面化しました。8〜10月決算で88億ドルの減損処理を迫られ、2四半期連続で大幅な最終赤字の計上を迫られました。

オートノミーは売上高の水増しや費用計上の仕方を操作し、実態より高収益の企業と見せかけていたことがわかりました。

HPの自己資本比率は10月末で21%と、その1年前から約9ポイントも急低下しました。

 

多くのバリュー投資家たちはHPに投資していた

巨額赤字を発表した当日、HP株は一時約15%急落し、約10年ぶりの安値に沈みます。

HP株を巡っては、米国を代表する多くのバリュー投資家たちがこぞって投資をしていましたが、割安に放置されていた株価は上がるどころか、不正会計の発覚で株安が止まらなくなりました。

一方ジム・チェイノスは、この時までに空売りしていた株式を買い戻して巨額の利益を確定させました。

不正会計そのものを見抜いていたわけではなかったのですが、無謀な買収が企業の稼ぐ力を示すキャッシュフローを大幅に悪化させていた事を見抜いていました

 

業界の構造変化に追いついていない企業への空売りを仕掛ける

ジム・チェイノスの強みは、財務諸表を読み込むことで企業の問題点をあぶり出す能力だけではありません。精密な分析とともに、遠視眼的に産業を高いところから見下ろすような視野も持ち合わせています。

業界の構造変化に追いついていない企業を見いだすこと、パソコン依存から抜け出せないHPはその典型でした。

「パソコン衰退」といったテーマから関連する企業を拾い出し、徹底的に財務を分析し、その中のテーマから出発する「トップダウン」と、個別の財務分析を重視する「ボトムアップ」をバランスよく融合させた投資スタイルが、ジム・チェイノス流の空売りの本質なのです。

 

会計を学ぶ大切さ

「あなた方が将来、何がしかの不正に出くわす可能性は十分にある」ジム・チェイノスはMBAを目指す学生に向かって語りかけます。

好んで取り上げるのは次のようなデータです。ある米業界誌が実施したアンケートによれば、企業のCFOの実に45%が、トップのCEOから決算書を都合のいいように操作できないかと依頼されたことがあると答えました。

金融詐欺の魔の手はいたるところに伸びています。経営者は私利私欲ではなく、従業員や株主にとって何が最適なのかを考えて、正しく行動する姿勢が欠かせません。

「何を一番勉強すればいいですか?」学生から問われればジム・チェイノスは迷わず「会計」と答えます。

「金融や企業会計の専門コースを取得するのはとてもいいアイデアだ。結局のところ、ビジネスは数字が全てだからだ。」

損益計算書などの財務諸表から企業の実態を正しく理解することができなければ、投資家にも経営者にもなることはできないとジム・チェイノスは言います。

 

近年の先進国による金融緩和はジム・チェイノスを苦しめた

空売り投資家として不動の地位を築いてきたジム・チェイノスですが、「今ほど、株式投資が難しい時期はない」と2013年末に語っています。

FRBによる米国債の購入を柱としたQE3に続き、日銀も13年4月からかつてないほどの金融緩和に踏み切りました。さらに後には日銀の第2弾金融緩和や欧州の金融緩和もあり、先進国の大胆な緩和政策で余剰マネーが株式市場にも流れ込み、米国株はほぼ一本調子で上がり続けました。

ダウ工業株30種平均は2013年に26.5%高を記録します。

株式市場の隅々まで緩和マネーが流れ出し、相場全体が底上げされる流動性相場の色彩は濃く、債券から株式への資金移動の兆しもみられ、株式相場は2015年7月までほとんど調整らしい調整をはさむことはありませんでした。

 

2013年のファンドの投資収益は過去10年で最悪の成績を記録した

ジム・チェイノスのファンドは、結局過去10年間で最悪の成績(マイナス14%)となりました。

これまでいくつかの失敗例はありますが、今回ほどポートフォリオ全体が打撃を受けたことはありませんでした。

FRBには逆らうな」金融危機後に繰り返し語られた相場格言を痛感させられたのです。

マネーが溢れ出す状態を作り出し、株高・債券高を狙う中央銀行の官製相場で市場の値動きもこれまでのような物差しで測れなくなってしまい、個別企業の精密な分析を通じて収益を狙うジム・チェイノスのような空売り投資家も、緩和マネーの荒波にのまれ、危うい航海を余儀なくされていました。

 

金融政策の出口で爪を研ぎ澄ませる空売り投資家ジム・チェイノス

金融緩和による「根拠なき株高」に陥っているとする今の市場は裏を返すと、空売り投資家にとって絶好の投資機会が訪れていることを意味します。

ジム・チェイノスは「数年前に比べ、米国にはあらゆる方面で空売りのチャンスが増えている」と明言しています。

米国株は代表的な投資指標であるPERが15倍〜16倍程度(2013年頃)。長期平均とほぼ一致し、米国株が適正な水準にあると見る向きは多いです。

しかし、これは誤りというのがジム・チェイノスの主張です。

PERは株価が1株あたり利益(EPS)の何倍まで買われているかを示す指標です。市場の集計はたいてい、特殊要因を除いた企業側の発表ベースのデータに基づいています。

米国企業は決算発表のとき、減損損失など自社にとって都合の悪い材料を除いてEPSを公表するケースが意外と多いのです。

ジム・チェイノスによれば、これを企業がSECに提出した厳密な米国会計基準(GAAP)に基づく損益計算書から集計し直すと、PERは19倍前後まで切り上がり、これが事実なら、たしかに株価は割高と言われてもおかしくないレベルと考えられます

 

市場全体が金融危機前の熱狂によく似た雰囲気になっている

株高を活用した企業の高水準の公募増資。インターネットサービスのTwitterなどの話題の新興企業が、新規に株式を公開する事例も後を絶ちません。

株高に耐えかねて、空売りに焦点を当てたファンドを閉鎖し、新たに買い持ち専用のファンドを立ち上げる投資家もいます。

ジム・チェイノスの目には、今の市場に表れる現象が、投資家がまだ熱狂に浮かされていた金融危機前の2007年の頃と重なっています

さらにFRBは2015年にも利上げを視野に入れています。金融政策が出口に向かえば、緩和マネーに依存した金融相場は失速するはずと考えており、「そろそろ投資家は慎重になったほうがいい」とジム・チェイノスは警鐘を鳴らします。

米国を代表する空売り王は苦境に耐えながら、いずれやってくるであろう収益機会に備えて爪をとぎ始めているのです。

 

まとめ

  • 割安株に仕掛けられた罠
    ヒューレッド・パッカード(HP)の株価は割安なのに暴落した
    多くのバリュー投資家たちはHPに投資していた
  • 業界の構造変化に追いついていない企業への空売りを仕掛ける
  • 会計を学ぶ大切さ
  • 近年の先進国による金融緩和はジム・チェイノスを苦しめた
  • 2013年のファンドの投資収益は過去10年で最悪の成績を記録した
  • 金融政策の出口で爪を研ぎ澄ませる空売り投資家ジム・チェイノス
  • 市場全体が金融危機前の熱狂によく似た雰囲気になっている

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