ウォーレン・バフェットを育てた投資家から学ぶ投資の心得『ベンジャミン・グレアム(バリュー投資の神様)』

ウォーレン・バフェットを育てた投資家から学ぶ投資の心得『ベンジャミン・グレアム(バリュー投資の神様)』

前回お伝えしたウォーレン・バフェットから学ぶ投資の心得『投資に成功した10の要因』の偉大なる投資家ウォーレン・バフェットは、数多くの実績を残している世界的に有名な投資家です。

そのウォーレン・バフェットを教育した師匠とも言える投資家の一人が、ベンジャミン・グレアムです。

2人の人生は様々に絡み合っていました。まだ、投資家として走り出しの頃から、ウォーレン・バフェットはベンジャミン・グレアムの学生となり、彼の会社で働いたのち協力者となり、最後は同志になったのです。

ベンジャミン・グレアムは誰もが認める財務分析の長老

ベンジャミン・グレアムには2冊の有名な著書があります。

それは、1934年に出版された「証券分析」と1949年に出版された「賢明なる投資家」です。

「証券分析」が今でも高く評価されている理由の一つは、出版されたタイミングが世界大恐慌のすぐ後に登場したことです。

世界を一変させる大事件はベンジャミン・グレアムに強い衝撃を与え、彼の考え方にも多いな影響を与えました。

他の学者達がこの経済現象を単に説明しようとしている中で、ベンジャミン・グレアムは人々が経済基盤を取り戻し、改めて利益を生む行動に移れるように支援しました。

 

ベンジャミン・グレアムは若くして成功した投資家となる

1914年に20歳でコロンビア大学の学位を得た後、ウォールストリートで仕事を始めます。

最初の仕事はニューバーガー・ヘンダーソン・アンド・ローブという証券会社のメッセンジャーで、債券や株式の価格を黒板に書き出して週給12ドルを得ていました。

その後、調査レポートを書くようになり、短期間で会社のパートナーに昇格します。

1919年、わずか25歳で年収60万ドル、現在の価値にして800万ドルを稼いでいました。

1926年には、ジェムローム・ニューマンと共同で自分の投資パートナーシップを立ち上げます。約30年後に、ここでウォーレン・バフェットが働くことになります。

 

1929年の経済危機により破綻した後「証券分析」を書き上げる

ベンジャミン・グレアムが1929年の経済危機で、経済的に破綻していたことはあまり知られていません

破綻した後は、母校の夜間クラスを教えながら、一家の立て直しを始めました。学校での教育を通じて、自分自身を振り返り、そして、コロンビア大学の教授仲間デビッド・ドッドに相談して、健全な投資の名作といえる著作を生み出したのです。

ベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドには15年間にも及ぶ投資経験があり、2人は4年かけて「証券分析」を書き上げました。

1934年に出版された時、ニューヨーク・タイムズのルイス・リッチはこう評しました。

学問としての探求と実践的な洞察が融合し、密度が濃く、細かいところまで隙の無い称賛すべき著作である。この本に影響を受ければ、投資家は市場ではなく、証券について考えるようになるだろう

 

昔の株式市場は現在のように法に守られていなかった

1933年の証券法と翌年の証券取引所法が制定されるまで、情報開示は極めて不十分で、間違いも多く、情報開示を拒む企業も多く、資産の評価も怪しかったのです。

偽の情報による株価操作は、新規上場時も上場後にもありました。

しかし、証券法制定以後、企業改革はゆっくりと進み、1951年に出た「証券分析」の第3版では、不正行為に関する記述は消え、株主と経営者の関係が登場しました。

その版の焦点は、経営者の能力と配当政策でした。

 

「証券分析」はベンジャミン・グレアムの考えを教えた著書

適切な価格で株式を買い、十分に検討して分散された株式のポートフォリオを作れば、健全な投資が可能だというのが「証券分析」の主張です。

ベンジャミン・グレアムは、自分の考え方を投資家に丁寧に解説したのです。

 

ベンジャミン・グレアムが説いた投資の定義

誰もが納得する投資の定義がない事が最初の課題でした。

ベンジャミン・グレアムは「投資にはさまざまな意味がある」と言いました。対象が株式であれば投機、債券なら投資ということではありません。

裏付けの不十分な債券は、債券だからといって投資とは言えず、純資産の価値より低い価格の株式は、株式であっても投機とは言い切れないのです。

どんな意図で行っているかが重要だとベンジャミン・グレアムは言います。

借金をして証券を買い、短期間で儲けようと考えるのは、対象が債券でも株式でも投機です。

ベンジャミン・グレアムはこの難しい問題をこう定義しました。

投資とは、徹底的に分析し、元本と十分なリターンを確認する作業だ。この要件を満たせないものは投機だ

シンプルな表現ですが、じっくり検討する価値のある言葉です。

 

3つのステップで分析する

確立された原則と適切な理論に基づいて、手元にある事実を慎重に検討し、結論を導き出そうとすること。

分析を、記述、批評、選別の3つのステップに分解します。

  1. 記述においては、事実を全て収集し、意味のある形で提示する。
  2. 事実は適切に表現されているかどうか、情報を解釈した時の基準の正当性を確認する。
  3. 分析している証券が魅力のあるものかを分析者に求められる。

ということです。

 

証券が投資の対象となるには安全性と利回りが重要

ベンジャミン・グレアムは、証券が投資の対象となるためには2つの条件があるといいます。

それは、元本の安全性満足できる利回りです。

安全性は絶対確実でなくてもよく、安全な債券も返済不能になる異常事態が絶対にないとは言えません。通常考えられる状況で損失を被らなければ安全と言ってよいという立場です。

満足できる利回りの条件も注意が必要です。「満足できる」とは、主観的な言葉だからです。投資家がまともに考え、投資の基本原則に忠実であれば、利回りの絶対値は問題ではありません。

財務分析を徹底的に行い、元本の安全性について妥協することなく、まともな銘柄選択を行えば、それは投機ではなく、ベンジャミン・グレアムが定義する投資と呼べるものとなります。

 

ベンジャミン・グレアムを生涯悩ませた投資と投機の問題

晩年に至り、機関投資家が明らかに投機と呼べる行為に走るのを悲しく見守っていました。

1973年から翌年の市場低迷期に、ベンジャミン・グレアムはドナルドソン・ラフキン・アンド・ジェンレットが主催するファンドマネージャーの会議に招待され、そこで自分の耳を疑うことになります。

機関投資家の運用が健全な投資ではなく、短期間にどれだけ高いリターンを得るかという競争に陥っていることは、私の理解を超えていた

と長年投資の定義を説いてきたベンジャミン・グレアムは悲しそうに語りました。

 

1929年の危機から学んだ安全なマージン

投資と投機の間に明確な線を引いたことに加えて、ベンジャミン・グレアムは株式の買い方を確立しました。

それは、投機でななく、投資と言える手法で、ベンジャミン・グレアム自身が「安全なマージン」と呼びます。

 

成功体験からくる楽観主義

1929年の危機は、投機が投資の仮面をかぶっていたというものではなく、むしろ投資が投機のように振る舞ったと表現したほうが適切です。

過去の経験に基づく楽観主義が広がり、危険な状態でした。過去の成功体験から人々は成長と繁栄が今後も続くと予想したために、金銭感覚を失い始めていました。

人々は自分で計算したり検討したりすることなく、株式に投資するようになり、楽観的な市場の中で、人々はどんな価格でも言い値で株式を買いました。

このような狂気がピークに達した時には、投資と投機の境目は曖昧になるのです。

 

危険な買い方に対抗する手段が安全なマージン

企業が今後も成長すると考えている投資家は、次の2つの手法で銘柄選択をするというのが「安全なマージン」です。

  1. 市場全体が低調な時に株式を買う
  2. 市場全体が低調とは言えなくても、ある株式が本質的価値よりも安い価格で取引されている時に買う

どちらの場合も安全なマージンがあります。

しかし、1.の市場が低調な時に株式を買うには難点があります。投資家は市場が低調なのか過熱しているのかを判定する指標を求めたくなり、市場の転換点を必死に予測しようとするが、そこに確かな答えは存在しません。

また、市場の水準が適正な時、投資家は儲かる株式を買うことができません。株式を買うために、市場の調整局面を待っているのは退屈ですし、それは結局、自滅することにもつながります。

 

市場全体が低調とは言えなくても、ある株式が本質的価値よりも安い価格で取引されている時に買う

そこで、ベンジャミン・グレアムは、2.の手法を勧めています。市場全体の活況を気にせず、価値よりも評価の低い株式を見つける方法です。

投資家には、価値より安く売られている株式を見つける方法が必要だとベンジャミン・グレアムは述べています。

ベンジャミン・グレアムの目標はその戦略を描くことでした。そのため、「証券分析」の出版以前には誰も考えなかった定量的手法を編み出したのです。

 

健全な投資=安全なマージンである

ベンジャミン・グレアムは、健全な投資のことを「安全なマージン」という考え方に置き換えました。

その考え方を適用して、株式と債券を一つの投資手法で評価しようと考えたのです。

 

債券で安全なマージンを考えるのは簡単

例えば、企業の営業実績を分析して、過去5年を平均すると固定費の5倍の利益を上げていたことがわかったら、その企業の債券には安全なマージンがあると言えます。

将来の売上高を正確に予測することまでは求めませんが、利益と固定費の間にマージンが十分に大きければ、企業の売り上げが急に落ち込んでも投資家は守られると考えたのです。

 

株式の安全なマージンの考え方は「企業の本質的価値 = 将来の予測利益 × 適切な資本還元率」を求める

本質的価値よりも株価が安ければ、安全なマージンがあると言えるのですが、それでは本質的価値をどう計算するのかという問題が起きます。

そこで、ベンジャミン・グレアムはこう説きます。

本質的価値とは、事実によって決まる価値である

事実とは、企業の資産、利益であり、配当や将来の明確な見通しなのです。

その中でも最も重要なのは、将来の収益力だとベンジャミン・グレアムは考えています。そこで、次のシンプルな計算式が生まれました。

企業の本質的価値 = 将来の予測利益 × 適切な資本還元率

資本還元率は、企業の収益性、資産、配当政策、全体的な財務健全性の安定度によって変わります。

ただし、この手法には、企業の今後を見通す力が必要ですが、それは正確に計算することのできないものなのです。将来の売上高や価格、費用を予測することは難しく、還元率を適用するのは大変困難です。

 

安全なマージンの考え方は3つの場面で役立つ

  1. 債券や優先株式のような安定した証券
  2. 比較分析を行う場合の銘柄選択
  3. 株価と本質的価値に大きな開きがある場合の銘柄選択

本質的価値が理解しにくい概念であることはベンジャミン・グレアムも受け入れています。

本来は、企業の帳簿上の資産から債務を引いた価値と同じであるはずです。そう考えれば、本質的価値は明確であるはずなのですが、企業の価値には帳簿上の価値の他に収益力の価値もあります。

本質的価値の正確な数字を出す必要はないとベンジャミン・グレアムは言います。

安全なマージンを考える上では、大まかな数字を株価と比べれば十分なのです。

 

定量的な要素と定性的な要素を考える

財務分析は純粋な科学ではありません。もちろん、財務諸表の詳細な分析には定量的な要素が必要ですが、企業の本質的価値を決定するために不可欠な定性的な要素も見逃してはいけません。

例えば、経営者の能力や事業素質です。

ベンジャミン・グレアムの関心事はこれらをどの程度考えるかということです。

 

定性的な要素は過大な期待などの間違った評価を起こしやすいので注意

定性的な要素を強調する点については、ベンジャミン・グレアムも確信は持てませんでした。

経営者の評価や事業の特質は測定が難しく、間違った評価をすることもあります。

定性的な要素を高く評価しすぎて、分析が甘くなるケースもあります。

ベンジャミン・グレアムの経験からも、形の見える資産から無形の資産に関心が移ると、投資家が過大な期待をするようになることがわかっています。

 

定量的な要素は数字で表すことができる

企業の本質的価値の大部分が定量的な他所によるものであれば、投資家のリスクは小さくなります。

固定資産、配当、現在及び過去の収益性は測定可能です。こうした定量的な要素は数字で表すことができ、経験則を裏付けてくれます。

 

銘柄選択のための2つのガイドライン

銘柄選択のためにまず始めるのは、純資産の分析をします。

株式を買う場合の最低ラインは、資産を清算した時の価値です。

大きな成長を予想して、それが外れても、誰も助けてくれません。事業は魅力的で、経営者も素晴らしく、将来大きな収益を生むだろうと思える企業には、多くの投資家が集まってきます。

投資家が株式を買えば株価は上がり、その結果、株価収益率も上がります。さらに多くの投資家が利回りに魅力を感じるようになると、株価は裏付けとなるはずの価値とは無関係に上がり、最後に弾ける日が来るまで、バブルが膨張し続けるのです

ベンジャミン・グレアムはこう指摘しました。

 

絶対忘れてはいけない2つの投資のルール

1つ目は、負けないこと。2つ目は、1つ目のルールを忘れないことです。
このルールは後にウォーレン・バフェットの投資の格言として受け継がれます。

負けないというルールは安全なマージンの考え方を確立するための次の2つのガイドラインで表現しています。

 

純資産価値の3分の2の価格で株式を買うこと

ベンジャミン・グレアムの事実認識に沿ったもので、彼の数学的な欲求を満たすものです。

ベンジャミン・グレアムは機械設備などの資産価値を全く評価しません。長期、短期の負債は全て差し引きます。残るのは流動性資産のみになります。

こうして計算した1株あたりの資産価値よりも株価が低ければ、絶対確実な投資法と考えます。

さらに、1社だけでなく、分散させた複数の企業の結果をベースにするべきだとも言います。

この手法に問題があるとすれば、この基準を満たす銘柄を見つけるのが難しいことです。強気の市場では特に困難です。

 

株価収益率(PER)の低い銘柄に集中すること

相場の調整を待つのは合理的でないと認めた上で、ベンジャミン・グレアムは2つ目のガイドラインを提示します。

株価収益率(PER)の低い株式で、価格の下がってきたものを買うというものです。

ただし、最低条件は、純資産価値がプラスであることです。資産以上に負債を負っていてはいけません。

 

ベンジャミン・グレアムは終生を通じてこの投資法称えた

ベンジャミン・グレアムが亡くなる1976年、シドニー・コトルと「証券分析」の第5版に取り組んでいました。

このときは、次のような条件で購入した株式の実績を調査していました。

株価収益率が過去10年間で最低になっていて、株価が直近の最高値の半分になっている、そして純資産価値がプラスである銘柄であること

1961年まで遡って調査した結果にベンジャミン・グレアムは手応えを感じていました。

 

ベンジャミン・グレアムが確信していた2つの前提

上記で述べた手法で選んだ銘柄は、市場での評価が非常に低く、理由はともかく株価が価値よりも低い。ベンジャミン・グレアムは、これらの株式は「不当に低い」株価が付いているので購入するべきだと考えました。

ベンジャミン・グレアムの考え方には前提が2つあります。

 

人間の不安や欲望に起因する

一つ目の前提が、株式市場ではおかしな価格が付けられた銘柄が登場することがありますが、通常、それは人間の不安や欲望に起因しているということです。

みんなが楽観的になると、投資家は貪欲になり、本質的価値よりも株価を高く押し上げてしまいます

 

平均への回帰

二つ目の前提は、統計学用語でいう「平均への回帰」です。

ベンジャミン・グレアムが統計学の用語ではなく、ローマ詩人ホラティウスの言葉を引用しました。

今落ちているものの多くは回復される。今栄えているものの多くは落ちていく

表現は色々ですが、効率的でない市場が自らを修復する力によって、投資家は利益を上げることができるとベンジャミン・グレアムは確信していたのです。

 

まとめ

  • ベンジャミン・グレアムは誰もが認める財務分析の長老
  • ベンジャミン・グレアムは若くして成功した投資家となる
  • 1929年の経済危機により破綻した後「証券分析」を書き上げる
  • 昔の株式市場は現在のように法に守られていなかった
  • 「証券分析」はベンジャミン・グレアムの考えを教えた著書
  • ベンジャミン・グレアムが説いた投資の定義
    3つのステップで分析する
    証券が投資の対象となるには安全性と利回りが重要
  • ベンジャミン・グレアムを生涯悩ませた投資と投機の問題
  • 1929年の危機から学んだ安全なマージン
    危険な買い方に対抗する手段が安全なマージン
    市場全体が低調とは言えなくても、ある株式が本質的価値よりも安い価格で取引されている時に買う
    健全な投資=安全なマージンである
    債券で安全なマージンを考えるのは簡単
    株式の安全なマージンの考え方は「企業の本質的価値 = 将来の予測利益 × 適切な資本還元率」を求める
  • 定量的な要素と定性的な要素を考える
    定性的な要素は過大な期待などの間違った評価を起こしやすいので注意
    定量的な要素は数字で表すことができる
  • 銘柄選択のための2つのガイドライン
    純資産価値の3分の2の価格で株式を買うこと
    株価収益率(PER)の低い銘柄に集中すること
    ベンジャミン・グレアムは終生を通じてこの投資法称えた
  • ベンジャミン・グレアムが確信していた2つの前提
    人間の不安や欲望に起因する
    平均への回帰

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